純粋な願い、砕けた世界(こころ) 完結


雲雀は聞く耳持たずと言わんばかりに脅しをかける。怯んだ綱吉を見て僅かに唇を撓ませれば、髪を掴んだまま一気に前へと引っ張った。綱吉はその衝撃に俯せで倒れる形になる。


「痛っ……!」


髪を引っ張られたのと床に顔を打ちつけた痛みに、綱吉の顔は苦しそうに歪んだ。だが、雲雀は綱吉に覆い被さると耳元で意地悪く囁く。


「わかってる?君を今此処で犯すこともできるんだよ?」
「ッ―――ど、うし…」


身に覚えの無い事が綱吉を酷け酷く追い詰める。それが目的かのように、雲雀は残酷な切り札を放つ。





「最初から君なんて遊びでしかなかったからね」
「え……」
「好き?愛してる?くだらないね。僕は君なんか最初から―――」





“殺したいぐらい大嫌いだったよ―――”





「そんな………ッ!」



雲雀の一言、それは綱吉の心に今までで一番の打撃を与えたかもしれない。同時に植え付けたのは後悔の念。もし、自分がボンゴレを捨てていたなら、何かが変わっていただろうかと…


「ヒ、バリ…さん……」
「気安く名を呼ば「っ、恭弥…さん……」


今の雲雀の言葉で綱吉は限界だった。意識を保つ事も、精神を保つ事も。
全ては自業自得かもしれない。雲雀の誓いに…ボンゴレを捨てるまで待つという不毛な誓いに、甘えていたのかもしれない。


それでも自分の心が壊れてしまう前に…どうしても伝えたいと綱吉は思った。だから呼ぶことを自分が許さなかった名を呼んだ。
どうせもう使い物にならなくなるなら、ボンゴレもボスも今は全て捨ててあなただけに――





「ごめん…な、さ…い…あ…い…し、て……ま…す…」





振り向いて口付けた、最初で最後の告白。驚愕する雲雀に微笑みかけ、綱吉は意識を失ってドサッと床に倒れ伏した。


「…つな、よ…し……僕は何を…」


雲雀が“作り出された幻覚…綱吉と骸が情事と睦言を交わし合う幻覚”から自我を取り戻した時は既に遅く――――


「ねえッ!つなよしッ!ねえ起きなよ!これはどういうことッ!!」







「ごめんなさい…雲の人。だけど、私も骸様が大切で、骸様が諦めてる願いを、ボスを手に入れたいという願いを、叶えてあげたかったの…」



“例え骸様がそれを望まなくても―――”





返答をしない綱吉の代わりを負うかのように、霧の術者…クロームの小さな呟きが空へと融けた。





fin

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