自己卑下主義者の愛し方 2


「例えば自分から抱きつくと「それは無理」


間髪入れず綱吉に即答され、骸は眩暈までしてきた自分の身に同情した。綱吉はそんな骸の様子を無視し、デスクに戻ると書類を手にしながら椅子に座る。

その完全に人を無視した行為に、骸の苛立ちは限界に達したらしい。痛む身体を支えながら立ち上がると、綱吉の傍まで近づき書類を取り上げた。


「あ! 返せ…んっ!」


綱吉が書類を取り返そうと上を見上げた一瞬を狙い、骸は顎を捕えて深く唇を重ねた。綱吉は突然のことに目を丸くし―――…身体は悍しいぐらいの嘔吐感を訴えてくる。


「んっ、…んー―っ!」


綱吉は身の毛のよだつ嫌悪感に襲われ、頭を振って骸の口づけから逃れようとした。しかしそれを許さないかのように、骸は綱吉の後頭部をがっちりと抑える―――はずだった。綱吉の顔色が、病的な程青ざめ瞼が震えているのを見るまでは。


「っ……つ、綱吉君?」


異常を察した骸は唇を離し、思わず綱吉の名を呼んだ。羞恥心とはまた違う不可解な反応は、骸の脳内に一つの仮説を生み出す。



(まさかこの子………)



「…ぅ…ぅぅ……―この、考え無しばかあああぁぁ―――ッ!!!」


綱吉は考えに耽ってた骸の身体を一気に突き飛ばし、バンッとドアを開けると全力で部屋から出て行った。その衝撃でドアに多数の亀裂が入り木片が飛び散る。
骸は防御も無しに壁に背中を打ちつけたせいか動けずにいた。二度も超モードで攻撃を食らうのは身体に負担がかかるのだろう。
クロームの身体でなくて良かったと心底思う自分に、随分甘くなったものだと骸は思いに耽った。




―――――…漆黒の破壊神が部屋へと来るまでは。




「ねえ、さっき凄い声が聞こえたんだけど……って、君、何してるの?」


綱吉の叫び声を聞きつけたのか、綱吉が半壊させたドアの傍には漆黒の破壊神……雲雀恭弥が立っていた。現状が掴めない雲雀は怪訝そうに骸を見遣り、トンファーを取り出すと黒く昏い微笑みを向けて問い掛ける。


「―――ねえ、何があったの?」
「…知りませんよ」
「咬み殺されたいなら構わないけど」
「彼の愚痴を聞いてただけですよ。大体、貴方が彼の私室に女連れ込んでヤってる方が悪いんでしょう! 確かに僕は嫉妬させろとは言いましたが―――あれは度が過ぎます。彼……泣いてましたよ」
「………っ…」


骸の最後の言葉に、雲雀は少しだけ胸の奥が痛んだ。同時に、普段何も言わない綱吉が相手なら、これくらいしないと―――…そう計算を企てた自分を雲雀は今になって後悔した。


「……そう。あの子を泣かせるつもりはなかったんだけどね」


雲雀はただ触れたいだけだった。触れて抱きしめて、愛してると囁いて……しかし綱吉はそれを頑なに拒む。嫌われているのかと雲雀は思ったが、それなら告白を受けて頷いた理由がわからない。


「……よくわからないね、あの子は」
「――――多分一筋縄ではいきませんよ。彼、他人に触れられると全身で拒絶反応起こしますから」
「……は?何それ、どういうこと?」


骸の突然の発言を雲雀は理解できず、脅しにトンファーを突き付ければ骸は呆れながらも先を続ける。短気な性格は綱吉と似ていると溜息を一つ吐いて。


「話さないとは言ってないでしょう?彼は何かのトラウマがあるのか、若しくは性質か……他人に触れられると嘔吐などの症状を起こすんですよ」
「何で君が知ってるの?それに、昔の彼はそんな性格じゃなかった」
「先程八つ当りされたので、その仕返しに唇をうば……ってえええぇぇ―――っ! ちょっ!人の話は最後まで聞きなさい!」


骸は容赦無く顔面に向けられたトンファーを間一髪で掴み、雲雀の攻撃を回避することに成功した。普段なら無様な真似はしないが、今は生憎負傷していて万全な状態では無い。そんな状態で血に飢えた獰猛な肉食獣と戦ったら……負けは確実だ。

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リゼ