純粋な願い、砕けた世界(こころ) 雲綱 暴力行為有り
あなたが好きです。
でも、愛することはできないんです。
狡いけどオレは―――
校内に響くチャイムの音が、退屈な授業の終わりを告げた。綱吉は友人である獄寺達の誘いを断り、早歩きで目的の部屋に向かう。
『授業が終わったら5分以内で応接室に来なよ』
並盛中最強の風紀委員長、雲雀恭弥。その彼に、綱吉は遅刻の罰で呼び出されていたのだ。
まあ、それは呼び出す口実でもあるのだろう。
「もうっ、走らなかったら10分はかかるって!」
綱吉には以前も似たような呼び出しがかけられたことがある。全速力で走って応接室の扉を開けたら、綱吉目がけてトンファーが飛んできた。廊下を走って風紀を乱すなとのことらしい。
「ぅぅ……やっぱり間に合わな…わっ!!」
綱吉は物々泣き言を言いながら階段を上がっていたが、足を滑らせてバランスを崩してしまった。綱吉は階段から落ちそうになったが、一本の細い腕が伸びてきて綱吉の手首を掴む。
「ッ…あ、…ありが……君はッ!!」
「気をつけて…」
綱吉の目の前に現われたのは、細身の可愛らしい少女。右目には骸骨の眼帯をつけ、纏う雰囲気は何処か妖艶さを感じさせる。
「なんで、クローム…さんが……」
「クロームでいい…」
「あ、じゃあクローム「……ボスも大切だけれど」
クロームは何かを思い詰めたような表情をしつつも、綱吉の手首を離すと駆け足で階段を降りていった。
残された綱吉に、超直感がけたたましく警告のベルを鳴らす。
「ヒ、バリ……さん…ッ!」
嫌な予感を胸の内に宿しながら、綱吉は一気に階段を駆け上がった。急いで応接室の前まで来ると、派手な音を立てて思い切りドアを開け放つ。
「ヒバリさんッ!!」
「……どうかしたの?」
綱吉が心配したこの部屋の主は、椅子に座って珈琲を飲んでる最中だった。外傷も見られず、部屋も特に荒らされた跡はない。戦闘にならなかったことにほっとしつつも、綱吉の超直感は警告を発し続けていた。
「ヒバリさん……骸に会いました?」
「六道?会ったよ」
「え!なっ、何もされませんでしたか?」
綱吉の問いに雲雀は首を傾げ、何かを思い出したかのように鼻で笑った。心底相手を馬鹿にしているような態度、それは綱吉の心に不安感を植え付ける。
「君、良い度胸だよね」
「え………」
「僕には何も言わないくせに、彼には愛してるって言えるんだ」
「……は?ちょっ、待ってくださ…がっ!!」
油断しきっていた綱吉の脇腹に、雲雀の持つトンファーの一撃が炸裂する。先程まで椅子に座っていたはずだが、既に綱吉の目の前には雲雀が立っていた。
綱吉は膝をついて床に崩れ落ちるが、雲雀は綱吉の髪を鷲掴みにすると無理矢理上を向かせる。
「っ、ぅ………」
「ボンゴレを捨てられないから…僕を愛せない、いや、誰も愛さないんじゃなかったわけ?」
雲雀の冷たい視線が綱吉の瞳に突き刺さる。雲雀に対して綱吉が恐怖を覚えることは久しぶりだった。
少なくとも、恋人関係になってからは雲雀の態度も穏やかだったはずなのに…
「…ヒ…バリ、さんっ…骸に…「しらばっくれる気?彼に抱かれて愛を囁いた君がさ」
「なっ!ちがっ、そんなことしてな…っぁっ!」
雲雀は綱吉の首筋に食らいつくように噛みついた。首筋からは皮膚が破れて血が滲み出す。雲雀から感じるのは、獰猛な猛獣が見せるギラギラとした瞳と獲物への殺意。
―――殺される、綱吉はそう直感した。
「っ……や、めて…」
「煩い。黙らないと咬み殺すよ」
- 1 -
戻る