彷徨える魂よ、時が来るまで安らかに眠れ 骸綱10年後 死ネタ

主を失ったはずの部屋から、何やら人の気配が感じられる。誘われるようにドアを開ければ、窓枠を背にして佇む懐かしい人の姿。


「貴方は………」


誰なのかを問う、無粋な真似をするつもりはない。だが、今僕が見ている光景は絶対に有り得ない。
そう、彼は誇り高く舞って永遠の眠りに就いたはず……


「……随分と礼儀知らずですね。此処の主の外出中に、何の用です?」


僕が問い掛けても、目の前の人物は無言で佇むだけ。何一つ口に出さず、呼吸による空気の振動も無い様はまるで剥製。
それを見ていれば、彼を失った喪失感を無惨にも深く抉られる。


「……貴方は何の用で此処に来たんですか?」


再度問い掛ければ、目の前の人物は身を翻して空気に溶ける。


「まっ―――ッ!!!」


僕が急いで駆け寄れば、宙から落下するのは見慣れた小さなモノ。これもまた、此処には有り得ないはずのモノ。


「霧のリング……」


先程の人物は、間違いなく彼のはずだ。でも、彼は奴等に、ミルフィオーレファミリーに命を奪われた。
それに、彼の頑固とした決断で葬られ、此処にあるはずの無いリングが目の前にある。


「貴方は、これを届けに来たんですか。わざわざ……歴史を変えてまで」


事前に彼に聞かされていた。もうすぐ10年前の彼等が、この時代にやってくるだろうことを。
だが、今の彼の行動には一つの疑問が残る。
本来ならばクロームが、霧のリングを持ってくるシナリオのはずなのに。


「貴方は何を考えてるんですか。クロームを―――ッ!!!」


ああ、そういうことか。霧のリングに触れれば、彼が最後に託した想いが流れ込んでくる。
彼はボンゴレを纏める立場でありながら、ただ一つの願いを叶えるために……





「貴方は死後も変わらない。このままでは僕が、白蘭の元に行くことはできないでしょう。貴方は僕の死を直感し、クロームの元へ行くように仕向けたんですね」





本当に優しくて、最後まで狡い人を愛したものだと自分でも思う。けれど、未来を変えることは許されない。
つまり、今目の前にあるこれは即ち――――




「欺けると思えましたか?霧の守護者も、随分甘くみられたものですね」




クフフと自嘲を漏らせば、霧のリングを軽く握り潰す。それは音一つ立てず、簡単に砕け散り砂と化した。

そう、これが彼の甘さであり優しさ。こんな偽物で僕を欺く気など、最初から彼には無いだろう。
死んでまで往生際が悪いなんて、さすがは今までと違ったボスですね。


「クフフ…無駄な時間を過ごしましたね。早く計画を実行しなくては」


窓枠から背を向ければ、僅かに感じる悲愴感と嘆願の念。ああ、馬鹿な人だ。
まだ貴方は、此処に留まっているのですか。死後でさえ、貴方に安らぎを与えてはくれないのですか。






「僕は死にませんよ。だから、今の内に休みなさい。過去が変われば、貴方はまた戦場に舞い戻る運命なのですから」






そう、貴方のいない世界など僕が許さない。
どんな手を使っても、必ず貴方を取り戻すと約束しますから。






fin
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