黒き純粋、盲目の絶対愛 1 雲綱前提骸綱 10年後


夢に囚われた、幸せな悪夢に。
幸せな悪夢、それは誰にとっての幸せか。
眠り姫の幸せとは、何を指すのだろうか――――









静寂と重苦しい雰囲気が漂う中、時計の針は22時を示す。ボンゴレファミリーの会議室、其処ではボスが不在でありながら重大な決議がされていた。


「これより最終確認を行う」


息一つできないような張り詰めた空気の中、黒いスーツを身に纏う赤ん坊……リボーンが一段と低い声で告げる。


「雲の守護者、雲雀恭弥。あいつから守護者の資格、即ち雲のリングを剥奪する。異存はねーな?」


リボーンの問い掛けに、集まった守護者達は皆黙って頷いた。その中でも霧の名を持つ青年……六道骸はこの決定を密かに喜びつつも、随分呆気無いものだと思った。


あれだけボスを独占欲剥き出しで囲い、護り続けてきた男の末路がこれか……骸は失望と落胆さえ覚えた。


雲雀恭弥は非常に好戦的な性格で、単独行動を常としていた。今回の任務にはパートナーがいたが、雲雀はそれを無視して一人で敵に攻撃を仕掛けた。未知なる敵、ゼルディアスファミリーの幹部に。


ゼルディアスファミリーは、マフィアでは珍しく女性だけで構成されていた。その幹部達は並み外れた術者で、幻術、魔術、呪術を駆使して日に日に勢力を拡大していった。

だが彼女達の遣り方は、目的のためなら手段を選ばないところがあった。そのせいで数日前、ボンゴレの同盟ファミリーに数多の犠牲者が出てしまったのだ。

事態を重く見たリボーンは、ボンゴレのボス……沢田綱吉の反対を押し切ってある決断を下した。


ゼルディアスファミリーの偵察と、場合によっては牽制。その任務を、雲雀恭弥と六道骸に与えたのだ。二人が犬猿の仲だと理解していたが、敵の勢力が未知数である以上半端な戦力では足手纏いになる。リボーンはそう考えたのだった。


だがその結果、雲雀は単独行動に走って返り討ちに遭ってしまった。同盟ファミリーの犠牲者の数人がかけられた呪咀を、雲雀もまた受けてしまったのだ。


雲雀が敗れたことで骸は彼を抱き上げて敵地から撤退した。原因不明の眠りに堕ちた彼を連れ帰った時、綱吉が駆け寄り取り乱して泣き叫んでいたことを骸は覚えている。




『――――う、うそ……きょ…う、……や、だっ!ねえっ、ね…えっ!起きて!ねえっ、恭弥さん―――ッ!』


大空の名を背負ってから、綱吉がここまで感情を吐露したことなど無かったかもしれない。ベッドで眠る雲雀の身体を抱きしめ、嗚咽混じりに愛しい名を呼び続ける綱吉の姿に……骸は痛々しくも身を焦がすほどの妬ましさを感じた。





「おい、骸」
「………」
「六道骸ッ!」
「…え……あぁ…どうかしましたか、…アルコバレーノ」


意識を逸らしていた骸の態度を戒めるように、リボーンはドスの利いた声と鋭い眼光で骸を射る。


「この決定事項はおまえがツナに伝えろ」
「僕が……ですか?」
「おまえの行動には、オレを含め全員が殺意を抱いてんだぞ。あの日呪咀を受けた雲雀を、真っ先にツナに会わせたおまえを…な」





―――苦しみ涙を流すことは目に見えていた、彼は大空になりきれない心根の弱いボスだから。
―――それでも見てみたかった、彼の反応を。目覚めない愛しい眠り姫を見て、彼がどうするのかを。





結果は……酷く酷く骸の期待以上だった。雲雀を連れ帰った魔の一夜が明けてから、ゼルディアスファミリーは一人残らず壊滅した。ボンゴレの手の者が向かった先で見たのは世にも恐ろしい惨劇の舞台だ。彼女達の身体は無残にも切り刻まれ、顔は焼け爛れて判別ができないほどだった。




「おまえがツナと雲雀を会わせなければ……こっちでゼルディアスの拷問も呪咀の研究もできたんだぞ。それなのにおまえは……ダメツナの手でその鍵を、雲雀の呪咀を解く方法を葬った」
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