そして剛志は、他人を守るための“力”だ。剛志と幸博は幼なじみだった。幸博はいつも虐められていた。その度に、剛志が幸博を庇っていた。
そして――
『やめなさいって何度いったらわかるの!?』
幸博の前に両手を広げて立つ少女がいた。
『ほんと、学ばないやつらだな』
剛志が睨み付けるだけで逃げて行く虐めっ子たち。
『サッちゃん大丈夫?』
サッちゃん、とは、幸博の昔の渾名だ。涙で潤んだ瞳をぶかぶかの袖で拭いながら頷く幸博。
少女――田代紗弥加(タシロサヤカ)は自分のハンカチを幸博に渡す。幸博に笑いかける優しい紗弥加が剛志は大好きだった。しかし紗弥加は、幸博のことが好きだった。剛志はそれに気付いていた。弱い幼なじみを幾度恨めしいと思ったか知れない。幸博が死んでしまえばいいのにと、何度思ったことか。
そんなある日のことだ。
紗弥加が、車に轢かれた。剛志は親の車で紗弥加の運ばれた病院に駆け付けた。人口呼吸器で何とか息をしている紗弥加の痛々しい姿を見た瞬間、剛志は思わず泣いてしまった。
『……くん…』
剛志ははっとした。とても小さな声だった。
『ツー、くん…』
ツーくんとは、剛志の昔の渾名だ。
『サッちゃんを、守って…あげて…?』
剛志は、留まることを知らないかのように頬を流れ続ける涙の中、喘ぎながら何度も頷いた。
初恋の相手との約束――それは、何度も恨めしいと思った相手を守るという、剛志にとって最悪なものだった。だからこそ、剛志は激しい“力”を手に入れた。剛志の“力”は雷だ。
「レズに言われたくねぇよ」
剛志は瑠璃を鼻で笑い飛ばす。
雷は、見た目だけでは威力がどれ程のものか分からない。剛志はいつも、自分を偽っている。本心を、誰にも悟られないために。
「ぁんだって〜?」
「だーからんなことしてる暇ねぇだろ」
「…誠也に説教されるなんて屈辱だ」
そういう瑠璃は、本気で落ち込んでいる様にも見えたし、楽しんでいるようにも見えた。
「あんだと?」
「誠也は相変わらず子供だね」
背後から、クスリと笑う声がした。
「グループ長!?」
黒い髪に、銀と黒のオッドアイ。その声は、紛れもなく聖霊学園上級クラス第4斑グループ長、魅幻美園のそれだった。
「んだよ美園、いたのかよ」
「何だい誠也。僕がいちゃ悪いかい?」
ニッコリと笑い、優しい声音で誠也に反論する美園。そんな二人の様子に、 瑠璃は一つの疑問を持った。
「誠也とグループ長って、そんなに仲良かったの?僕知らなかったんだけど」
「ん?知らなかったのか?俺とこいつは幼なじみだぞ。中等部にももう一人いるんだけどな」
「誠也、君ね。幼なじみと言えど年上に対して『こいつ』はないんじゃないかな」
誠也は高等部2年、美園は高等部3年だ。美園の言動は理に叶っている。
「この学園で年上も年下も関係ねぇよ。幼なじみ相手に他人行儀なんて気持ち悪いね」
「君は『親しき仲にも礼儀あり』って諺を知らないのかい?相変わらず子供だね」
「『赤信号、 みんなで渡れば 怖くない』って諺なら知ってるぜ」
「それはことわざじゃなくて標語だよ。ほんと馬鹿だね」
「ヒョウゴって何だよ。兵庫県のことか?」
「……馬鹿の君には難しい単語だったみたいだね」