此処は聖霊学園寄宿舎の大広間。16階分の吹き抜けの上には、巨大なシャンデリアが輝いている。二人の男子生徒が、直径120mのこの広間を横切ろうと歩いていた。
「剛志(ツヨシ)、瑠璃そろそろ帰ってくるかな?」
 佐風幸博(サフウサチヒロ)――二つ名“聖風(セイフウ)の幸博”が、横を歩く男子生徒に話しかける。
「あぁ。多分な。にしても…“聖影(セイエイ)の瑠花”だっけか。瑠璃の従妹が虐められるなんてな」
 雷雅剛志(ライガツヨシ)がふと前を見ると、空中に波紋のような物が浮かび上がる。そこから紺のセーラー服を来た、瑠璃色の髪の少女が現れた。
「よ、っと。此処は…大広間か。医務室はあっちだな」
「よぉ瑠璃」
「久しぶりだね瑠璃」
「おう!一月ぶりだっけ?」
「久しぶりに闘らね?」
「いいね。けど僕瑠花のとこ行きたいし」
「俺に勝ってから行けばいいだろ?」
 あからさまな挑発をする剛志に、瑠璃はまあ僕が負けるはずないけどねとわざと乗っかった振りをして、楽しそうに戦闘体制を整える。
 そんなとき。
コツン、と背後から足音がした。
「そんなことしてる暇ねんじゃねーの?」
「そうそ。ちゃんと作戦立てなきゃな」
 赤い髪と銀色の髪が、足音に振り向いた瑠璃に言う。
「よぉ剛志に幸博!久しぶりだな」
 誠也はポケットに突っ込んだ右手を顔より高く、勢いよく振り上げ、久しぶりに会った同級生に笑いかけた。
「“グループ仕事”のこと聞いたか?」
「うん!学園長の使いの人からね」
 駆け寄ってきた誠也に、幸博は笑顔で答えた。
「幸博の笑顔に何人騙されたことか」
 そう呟いた瑠璃に、幸博は「騙してなんかないもん!」と目を潤ませて言った。するとまた、
「その涙にも何人騙されたことか」
 と瑠璃が呟いたので、剛志に「瑠璃が虐めるー!」と抱きついた。
 剛志が幸博の頭をポンポンと撫で、こちらを睨み始めたので、瑠璃は
「ホモもいい加減にしなよね」
 と首を竦めて言った。勿論、冗談である。
 聖霊学園は、代々水野家の長男によって受け継がれてきた。
 此処に入学できるのは“力”を持った子供たちのみである。
 初等部から高等部までの中に、初級クラス、中級クラス、上級クラスの3つのクラス構成だ。
 クラスといっても、普通の学校の学級とは違う。
 ちなみに、此処で話している5人は皆高等部の上級クラスである。それに、皆同じグループである。
 グループとは、同じクラスで、ほとんど同じ部の6人で構成されたものであり、その中で3組のパートナーという“仕事”を共同して行うペアができる。
 “仕事”とは、自分と同年代の他校の生徒を助けるという内容である。
 また、“仕事”の際には、終わった後、その学校の生徒の記憶を消さねばならない。
 聖霊学園の情報漏洩を防止するためだ。
 聖霊学園の生徒は皆、過去に何かしらある。虐められていただとか、虐待されていただとか、両親を亡くしただとか、数え出したらキリがない。例えば虐められていたならば、自分を守るための“力”を持つ。そのように、人間は自分、もしくは他人を守るために“力”を宿す。たまに例外はある。復讐をするために手に入れる“力”だってあるのだ。
 それから、五大名家も例外だ。生まれつき“力”を持っていることが多い。生まれつきの“力”がなく、何かしらのきっかけで“力”を宿すこともある。瑠璃は後者だ。瑠璃は五大名家水野家の長女で、きっかけによって“力”を手にしたのだ。
リゼ