此処は、とある私立高校。優秀な卒業生を多数出す名門校である。時は放課後。
「…ねぇ、貴女目障りなのよ。死んでくれない?」
「…ぁ………」
 しかしそんな名門校にも、闇は存在する。教師の知らないところで、虐めが多発していた。
「今日はどうしよっかな?本当に死んでもらう?理由は…そう、周りのプレッシャーが 重すぎてそれに耐えきれずに自殺ってとこ?」
クスクスと笑う、女生徒たち。その真ん中には、座り込む、同じく女生徒。彼女の名前は橘理沙(タチバナリサ)。
――2−B
 その教室の中で起こる、残酷で醜く下らない出来事。その様子を廊下からひっそりと見ている、これまた同じく女生徒がいた。彼女は黒髪に丸眼鏡を掛けた、黒い瞳の、極一般的な日本人。
「ねぇ、何か言ったらどうなの?」
 一人の女生徒が、橘を突き飛ばした。
「もういいわ」
 4人ほどいる女生徒の中で一人リーダー的な存在の女生徒――伊藤(イトウ)が、一歩前に出た。
「この遊びにはもう飽きたし、死んでもらいましょうか」
 完全に怯えている橘に、じり、と一歩、近付いた。
――ガタン!
 途端、廊下から凄まじい物音がした。
「誰かいるの!?」
 伊藤は、発作的に叫んだ。
「…ぁの…わ、たし…」
 怯えた様子で、足元がふらついている女生徒。
「あら、貴女…確か転入生の……水野(ミズノ)さん、だったかしら?」
「…はぃ、そうです…」
 水野と呼ばれた少女は、ドアのところで座り込んでしまった。
「ねぇ、今見たこと、見なかったことにしてくれる?ほら、これあげるからさ」
 そう言って、鞄から何かを取り出す女生徒――彼女は伊藤の親友の高橋(タカハシ)である。高橋が鞄から取り出したもの。それは、札束だった。札束を目の前に突き出された水野は、今まで怯えていたのがまるで嘘のように途端に表情を変えた。
「ははっ、はははははははははははは!はははははははははははは!」
 突如笑い出した、水野。その笑いは、今まで怯えていた様子が欠片も見えず、その笑いは強気な少女のそれだった。その突然の変化に、逆に高橋たちが怯んだ。しかしそれを隠すように大きな声を張り上げる伊藤。
「な、何がおかしいのよ!!」
 伊藤のその声を聞いて、今まで腹を抱えて笑っていた水野は、笑うのを止めた。
「ははっ、ごめんごめん。いきなり札束出されたから君たち頭おかしいんじゃないかと思ってさあ、つい笑っちゃったよ。悪いね」
 そう言う水野の様子は、まるで人が変わったようだった。
「残念だけど僕は金をいくら積まれても動かないよ?だって“仕事”だからさ」
「なっ、…何なのよ貴女は一体……!」
「僕?僕は水野瑠璃(ミズノルリ)。聖霊学園高等部1年水野瑠璃。二つ名は……ねぇ、『聖水(セイスイ)の瑠璃』って聞いたことない?それ、僕のことだから!」
「貴女があの『聖水の瑠璃』だって言うの?」
「有名人の名前を騙るのは誰にだってできるじゃん」
「それもそーだねぇ。ま、それについてはまた明日」
 瑠璃はそう言って、懐から銃を取り出した。
「じゃ、バイバイ」
BARRN!
 瑠璃の姿は教室から消えて廊下の何処にも姿はなかった。教室に残されたのは、水浸しの伊藤たちと、教室の隅で怯えるように震える橘の姿。
そして、誰もいなくなった真夜中の校舎中に、笑いがこだましたとか。その真偽を知るものは誰もいない。いたとすれば、笑っていた本人だけだろう。
リゼ