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◆終わりが見えた関係(黒桃)


「テツ君、好きだよ」
彼女がそう言って擦り寄る際に浮かぶ感情はなんだろうかと今日も三度そんなことを思う。
僕が彼女に抱く感情は、世の一般男性が持つものとは違うと周りのチームメイトから再三言われた。
振り払わないのを良いことに彼女はぎゅう、とその豊満な胸を僕の腕に押し付ける。
「好きだよ」
再度呟いて目を閉じた彼女に抱いたのは、どろりとした赤い感情だった。
「……そう、簡単に“好き”だなんて言わないで下さい」
赤くて、鉛の様に重い感情が心底に沈殿していく。
「だってテツ君が好きなんだもの、好きだから好きなんだよ、好きだよ」
彼女は此処に来てから“好き”しか言ってないかのように思える。
どろりとした赤が神経を犯していく感覚がどこか新鮮に覚えて僕はそのままに身を委ねる。
「……桃井さん」
世の男性は、僕が彼女に抱く想いを一般とは呼ばないと称した。
僕の心内さえも知らない癖に、何を言うのだろうか。馬鹿げている。
「どうしたの、テツ君」

どろりとした赤が末端神経を犯していく。
その先にあるのは、汚れを知らない彼女だった。

「……テツ君?」
さらりとした髪を掻き上げて、片方の腕を彼女の腰に回す。

彼女を汚したく無かった僕は、彼女に触れることを拒んだ。
彼女から触れてくる事は許容していたのに、それでは同じでないか。

潤んだ瞳が僕の虚像を捉えて見開き、そうして閉じられた。

彼女に抱いた想いは、世の男性が言う“劣情”ではないかと彼女の唇に僕の唇を当てながらそう思う。

大切だからこそ今まで触れることも無く綺麗なままで居て欲しかったのに。

大切だからこそ汚してしまいたいと思う心は、確かに彼女に“恋”していると言えるだろうか。

唇から吐息が漏れて、潤んだ瞳が再び開いた。
その瞳に映すのは、僕の虚像だろうか。それとも僕の実像だろうか。

「……好きだよ」

彼女の言葉は、沈殿していく心に埋もれて形を為した。
僕は彼女の事が“好き”なんだとやっと自覚して、自覚して初めてもう一度彼女に口付ける。

赤い神経回路が穏やかな色へと変わり、それは涙へと形を変えて地面に吸い取られた。


終わりが見えた関係
(やっと僕は一歩踏み出せた)


fin


こんな形の黒桃があってもいいかな、と。
題名はネガティブだけど、本当の所は凄くハッピーエンドだったり。



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リゼ