「不二周助が来るらしいで〜」
俺がうっかり口を滑らせてしもたせいで、噂は四天宝寺テニス部全員に知れ渡った。
我らが部長、白石と天才不二周助がそういう仲だということは全員が知っとった。
勿論俺らは白石を応援したろ思うていたんやけど、財前と俺…忍足謙也をはじめ、四天宝寺テニス部メンバーの誰もが不二の美しさの虜となってもうて、不二が来る度にみんなして声かけておった。
あの細い手足、輝く瞳、エクスタシーや!
「謙也、顔がニヤけてんで?気持ち悪いわ…」
「謙也さん、アホ面に更に磨きがかかってえらいことになってますよ」
「うるさいっちゅうねん!って、財前!おま、携帯…」
財前の携帯をふと覗くと待ち受けが不二周助のドアップやった。
か、かわええ…なんてしばらく感心しとってから俺は我に返って叫びそうになった。
「なんですか。人の携帯覗き見るなんてえらい悪趣味っすわ」
でも…
と財前は付け足して言った。
「これ部長に黙っててくれるんやったら、待ち受けにしてる画像。謙也さんに送ってやってもええですよ」
「なんでそない上から目線なんや」
「謙也さんやからです」
「ふざけんな!」
「相変わらずにぎやかだね」
俺と財前が言い合っていると、噂の人物…青学の不二周助が白石と共に部室に入ってきた。
「遅うなってすまんなあ。準備体操は終わったか?」
「ごめんね、電車が点検で遅れちゃって…君たちの大事なキャプテンを遅刻させてしまったみたいだ…謝るよ」
「そんなの不二のせいやないって!それに白石おらんくても俺らだけで部活くらい…」
俺がそのノリで不二に触れようとした瞬間に財前が体を滑り込ませ、俺の脇を肘で突いた。
「っおうふ!」
その場でしゃがみこんで悶えていると財前のヤツは今まで俺らには見せたことのないような屈託のない笑顔を不二に向け、更に俺らは聞いたことのないくらい甘ーい声で話出した。
「不二さん、無事に大阪まで来られてよかったです。長旅ご苦労さまでした。今日はゆっくりと休んでくださいね。」
「うん、ありがとう…えっと財前、だったよね?」
「はい。覚えててくれはったんですね。俺、嬉しいですわ」
「ふふっ少しの間お世話になるよ」
不二の笑顔。
とびっきりの笑顔が!
財前によって引き出された。
ちくしょう、俺だって負けてはいないはずなのに…!
「ああ、大丈夫?忍足…」
未だしゃがんで脇腹をさすっている俺と目を合わせようと不二が少ししゃがんだ。
さらりとした髪からチラリと見えるその双眸はあまりに美しくて、俺はつい唾をゴクッと飲み込んだ。
「あ…おん、大丈夫やで!心配おおきに!」
顔が赤くなるのを感じて俺はあわてて起き上がった。
「謙也、顔赤いわー。みっともないなー。ワイも不二と話したい!」
金ちゃんがどこからともなく現れよって、不二に飛びつこうとしたのを毒手をかざした白石に制される。
「毒手っ!」
金ちゃんはビビってそれ以上近づかへんかった。
今日の白石の反射神経、半端ねぇ…
「みんな、いくら不二クンが綺麗だからってナンパしたら許さへんからな。ほな、練習始めようか」
白石が不二の頭をそっとなでる。
不二は気持ちよさそうにその手に甘えると「僕も見に行っていい?」とそっと囁いた。
「もちろんや」
「ありがと」
不二が白石の胸に顔を埋めるのを見て、俺の胸はきゅんと締め付けられるような感じがした。
「練習お疲れ様」
ゼイゼイしている俺らに向かって不二が言った。
今日の練習中、白石のテンションは最高やった。
いやマックス通り越してどっかいったなってくらいコンディションバッチリやった気もする。
「不二クン、タオルとってくれへん?」
白石が言うと不二はにこっと笑ってタオルを手渡した。
「はいどうぞ。お疲れ様、白石」
「おおきにー」
傍から見ていると新婚カップルみたいや…
思わず口に出してしまうと、なんだかやっぱり切なくなった。
「なんや謙也、今更気づいたなんて鈍くさい奴っちゃなあ」
白石が幸せそうに笑った。
「お似合いのカップルっすわ。」
財前が横から言う。ちっ余計なことを…
「俺は二人の幸せを心から応援していますから…世間なんかに負けんで頑張ってくださいね」
「ありがとう、財前…君はいい子だね」
「…」
財前は黙った。
そっと顔を見ると普段のクールな様子となんら変わりのないように見えるが…
いや、こいつめっちゃ嬉しそうな顔しとる!
ごっつ幸せそうな顔しとる!
うっわなんやこいつ!つか誰や!その頬を赤らめて口元緩めてる奴は誰や!
「不二ー!ワイのことも褒めてーな!」
「君はもっともっとテニスがうまくなるよ」
「よっしゃー!ワイ頑張るでー!」
金ちゃんも不二と戯れて…
「いやぁん不二周助って結構カッコイイのねぇ〜ロックオン☆」
「浮気か!死なすぞ!」
ってこいつらまで…
俺も何とかして不二と話したい!
話題はなんでもええから不二と!
「忍足…?」
挙動不審な行動をしている俺を見て、不二はクスリと笑った。
「髪の毛にガム付いてるよ」
今日も四天宝寺中テニス部は賑やかや。
不二は今日白石の家に泊まるんや言うて俺に衝撃的な発言をした後すぐに白石に連れられて帰ってしもた。
部室では不二の魅力について財前中心に話し合っていた。
俺はというと部室の外にある水道で必死にガムと格闘していた。
誰や!ガムなんか付けたヤツ誰や!
本間に許さへんからな!一生恨み続けてやるから覚悟しときや!
あーもう取れへん。こびり付いて取れへんやないかぁああ!
ちっくしょう!
「忍足っておもしろいね」
そのころ不二は白石の家でお風呂から上がってソファーでくつろいでいた。
「謙也はギャグ線高いやろ?」
「うん!でもどこでガムなんか付けてきたんだろうね…」
「どうせ自分で噛んだガムをスピードスターや!とかいって高速で捨てに行った時にゴミ箱の手前ですっ転んで宙を待ったガムがそのまま髪の毛に付いたんやろ。アイツならやりかねん、てかアイツにしかできひんな」
「忍足ってほんとに面白いんだね!あんなに笑ったの久しぶりだったよ」
「それ謙也に言ってやったらきっと喜ぶでー」
「じゃあ言わないでおこう」
「不二クンは意地悪やなぁ」
「白石以外に媚びを売るつもりはないからね」
「ほんま可愛ええ子やな不二クン。今夜は寝かさへんよ?」
「期待してる」
お互い見つめ合い、白石が不二の頬に手を添える。
そして顔を近づけた瞬間…
ブーっブーっ
白石の携帯のバイブがなった。
「すまんなぁ不二くん。空気ぶち壊してもうて…」
「いいよ。誰から?」
白石が携帯を開くと『新着メール1件』と表示されていた。
メールを開くと
「ガム取れたで!」
とだけ書かれた謙也からのメールだった。
二人は顔を見合わせると、腹をかかえて笑ってしまった。
END
キリ番4600、匿名様からのリクエストで蔵不二←四天でした。
匿名さん!キリ4600番ゲットおめでとうございます!
そしてリクエストありがとうございました^^
アップが遅くなってしまい大変申し訳ないです。
そして←四天なのにほぼ謙也と財前しか絡んでませんね…;
ご期待に添えませんでしたらすみません!
感想などはMailなどから受け付けます。
それでは訪問・閲覧誠にありがとうございました!