それはね、恋だよ



がちゃん、と準備室の重い扉が震えながら閉まる。誰が使うのか、豪華なソファの前には朝、準備室に来たときのまま先生の飲みかけのコーヒーが置かれてた。あたしの腕は先生に掴まれたままで、閉まる扉の前で引き寄せられる。きつく、耳元では吐息が聞こえる。



「せん、」

「………少し、こうさせてくれ」



返事の代わりに先生の白衣をきゅ、と握ると、先生は更にきつく抱きしめた。そんな先生の気持ちに安心したのか、足から力が抜けていく。ずるずると下がっていけば、先生も一緒に座り込んだ。


それから不意に、首筋でくちゅ、と音が聞こえる。



「っ、せん、せっ?」

「…ん?」

「………、っぁ…」

「…声、我慢するな。聞きたい」

「ん、やっ…ぁ…」



段々と首から耳へ、至近距離で吐息が、舐める音が聞こえて。あたしは先生の胸元の白衣にかろうじて掴まっているだけで精一杯だった。


(せん、せい)ねぇ、先生。好きだよ。大好き。


生理的な涙が頬を伝う。それに気づいた先生が眉を歪めて涙を親指でなぞった。



「…………すまん」

「ちが、う」

「いや、怖がらせた」

「違うの、せんせっ…」



(どうしたら分かってくれる?)先生が困った顔をしても、涙は止まってくれなかった。どうしたらいいのかな。どうしたら、先生に伝わる?


先生が肩を掴んでいた力を緩めた。それを理解した瞬間、体が勝手に動いた。大きな先生の体にしがみつく。吸い込んだ匂いは全部、大好きな先生の、煙草の匂い。



「まって、せんせ、」

「……ハル」

「だい、好きだよ、先生。大好き、だからっ…」

「……ああ」

「あたしのこと、生徒じゃなくて………女として、見て、くれる…?」



涙で滲んで、こんなに近くにいるはずなのに、先生の表情はよく分からない。とにかく離れて欲しくなくて、今出来る限りの力で、先生を抱きしめた。

耳元で、小さく舌打ちが聞こえる。



「………生徒、なんだよ」

「……っ」

「……生徒なのに、……こんなに本気になっちまうんなんてな。俺もヤキがまわったかな」

「……ほん、と……?」

「ああ。離せなくなるぞ。いいのか?」

「…あたしが先生を、離せないんだよ」



あたしの言葉に、へらりと先生が笑う。温かい大きな手が背中にまわって優しく撫でてくれる。ごめんな。と優しく言う先生の声に、瞼を降ろした。



「柚木じゃなくて、いいのか」

「…先輩は、あたしよりぴったりな人がいるよ」

「あいつの方が幸せにしてくれるかもしれんぞ」



そう言った先生の頬を両手でぱちんと挟むと、きょとんとした間抜けな顔になった。だって、そんなこというなんて、むかつく。



「先生じゃなきゃ、駄目なんだ、バカ」

「………ん、サンキュ」



もう一度微笑んだ後、先生は優しく額にキスをして、抱きしめてくれた。




11.02.04
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お題は確かに恋だった様より

今まで放っておいた続きものをやっと完結させました。続いてるような、続いてないような、なんとも言えませんが。

ちょこちょこ修正していこうと思っています。



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