「傘、入るか」 部活終わりの彼と練習帰りのあたしがばったり出会ったのは、日が暮れたのかもわからないほど真っ暗な空の下の玄関だった。どうやらサッカー部は元々雨を見越して屋内でのトレーニングだったらしくて、土浦くんの髪の毛は全然濡れてはいなかった。 そしてあたしはどしゃぶりの雨の中、傘を忘れた。 「…いいの?」 「このままお前を置いていけるほど、俺は冷たい人間に見えるか?」 「見えません。ぜんぜん」 「ならいいだろ。ほら、行くぞ」 「はいっ」 土浦くんの透明なビニール傘が動き出したから、あたしは慌ててその下へと走る。傘の右半分に収まるあたしの体。濡れそうになる右腕の袖に、太ったかもしれない、と思った。 「ハル」 「ん?」 「お前んち、どこなんだ」 「あ、えっと、ここから右行って交差点渡って、」 「遠いのか?」 「うーん、そんなに」 「ふーん」 自然と、土浦くんが右に歩いていく。そういえば土浦くんの家はどこなんだろう。って思って聞こうとしたけど、すぐに小テストの話をされて、結局聞けずに終わった。 (もしかして、)…いや、そんなことあるのかな。そんなことあるって思ったら、何だかものすごく自意識過剰なヤツになってしまう気がする。 でもあたしはどきどきを止めることが出来なかった。左の彼をこっそり見上げればいつもよりもずっと肩が近くにあって、平然としていろって言われたって無理にも程があった。 気付けばあたしの家の前まで来ていて、未だにどしゃぶりな雨の中もう一度彼を見上げた。濡れるから走って玄関行けよ。ふ、って笑ったその笑顔にあたしは、はい。って頷くことしか出来なくて。 「あ、ありがとね」 「おう。じゃあな」 言われた通りに走って玄関まで行ったのに振り返ってしまったのは、どうしても聞けなかった質問の答えが気になったから。 来た道をちゃんと戻っていく彼の左肩はびっしょり濡れていて、それを見届けた頃、あたしの頬はすっかり熱を持っていた。 ああ、もしかしなくても (この熱はあの人のせいだ) 09.10.15 --------------- お題は確かに恋だった様より 火原くんの夢(「ごめんもう笑えない」)を執筆中に思い付いたので、相合い傘な部分が被りましたー。すいません! が、しかし どうしても自分が傘からはみ出てることをわかっていながら主人公ちゃんを傘にいれさせる優しさを書きたかった! 土浦くんは私の中で適任です(^^) 戻る |