おーい、席つけよー。 ゆらゆら白衣の裾が揺れてぴしゃん、と教室のドアが閉められる。音楽教師の癖にどうしてあんなもの着てるんだろう。さもやる気無さそうにくあ、とあくびをしたところを見ると、昨日は夜中まで起きてヤケ酒でもしてたのかな。そんなことを考える。 「今日は〜…教科書103ページからやるぞー。んじゃ、阿部、読んで」 あたしの席は窓際にある。だからいつもぽかぽか陽気のせいで眠気が絶えなくて、お昼時はいつも睡魔と格闘しているのだった。 授業は大半つまらない。どうやら自由に演奏するのが好きらしいあたしは音楽史は特に苦手だった。ただ金澤先生(なんて呼んだことはあまりないけど)の授業は嫌いじゃない。なんでかっていうと、先生が可愛いから。 阿部くんが立ち上がって教科書を読む。教科書を見るふりをしてちらりと先生を見つめる。みんなはとやかく言わない金やんのお陰で睡眠地獄。無造作にまとめられた髪が肩から落ちたとき、先生と目が合った。 思わず笑うと、先生は困ったように眉をひそめる。そしてため息をついてから、教科書を読むようにこっそりジェスチャーをしてきて、あたしはそれに(やーだ。)と口パクで返す。そうすると先生はまた困って眉間にシワをつくってしまう。 「先生、終わりました」 「…あ、ああ、ご苦労さん。じゃ、次のとこ、榎本」 明らかに挙動不審。内心そんな可愛い先生に大笑いしながらまたしんとなる教室の中先生を見つめる。 (せんせい、) あたしだけにわかるように先生は(なんだよ)って返してくれる。 (か・わ・い・い) 口パクだったけど、先生にはしっかり伝わったみたいで目の端をぴくりとさせて口をつぐんだ。それからひとつ咳払いをして、教科書で顔を隠す。 榎本さんが読み終わってもその頬は少し赤かった。 ------------------ こんなかわいい金やんいないかな。笑 主人公、小悪魔! 戻る |