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「キリ、きれいな髪だね。優しい色。目も綺麗!精霊の湖と同じ色だ!」
「…っ」
子どもは残酷だ。
何も知らず、純粋で、そして恐ろしい。
「…精霊の湖にあまり近づかない方がいい」
「えーっ!どうしてー?」
「精霊の湖は我々を守りも、傷つけもする力を持っているから」
「よくわからないよー」
「料理を作る時、火を使うよね?とても便利だけど、時には家を燃やしてしまうほど恐ろしいものになる」
わかったように頷くと、小さなレディは母親の元へしがみついた。
「火、といえば…マーベの街が戦いに巻き込まれてかなり燃えたと、聞きました。ローテンハイム様、どうか我々を戦火からお守りください」
いつになく真剣な顔。
巷で聞いた噂は本当だったのか…
しかし、僕には為す術も義理もない。
「奥さん、残念ですが僕はしがない田舎の魔法使いです。町外れで護符や薬などを作って生計を立てているだけで、そんな力はありません」
「でも貴方はイリーナ様の直系の…っ!」
思わず睨んでしまった。
2人が息を飲む。
「…そうです。僕は恐ろしの魔女、イリーナの呪われた息子です。奥さんもご存知だと思いますが、僕のような不埒な者とあまり関わらない方がいいです。」
「…過去のことは知っています。でも貴方はまだ子どもだった…」
そう、僕は子どもだった。
だから何だというのだろう?
「…従者を待たせているので、お暇します。さようなら」
厳しく言って背を向けたつもりが、彼女達から逃げるような格好になってしまった。外にはエドガーが何も言わず立っていた。
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