ああ、カミサマいるのなら
上山は変わってる。
学内でも滅多にないくらいの高身長と、もじゃもじゃの頭、そして某宗教にハマっていてその戒律に基づいて生活していることから、奴はちょっとした有名人だった。

食事は必ず屋外で食べるだとか、異性とは絶対目を合わせないとか、1日に3回戒律の写しをノートに書き付けるとか。

たまたま同じ小学校だったせいで、顔と名前を知っていたが別に仲が良かった訳でもなく、ましてや向こうが俺のことを認識してるなんて夢にも思っていなかった。


「はっ…はっ…はっ…下澤君…下澤君…」

涙と汗を振り落としながら腰を動かす男を見ながら、これはなんの悪夢かと気が遠くなった。鼻血が出たせいで息が苦しい。天井に吊るされた電球が眩しくて上山がどんな顔をしているのか全く見えなかった。
しかし、周りに複数人がいるということは物音とかなんとなしに気配があるせいでわかった。


バイトからの帰り道、突然殴られて気がついたら裸で手を縛られて床に放り出されていた。
床はコンクリートだったが、よく見ると何か模様のようなものが墨で描いてあり、周りからは煙るような香の匂いが漂っていた。

目の前には上山と仮面の男が立っていた。

「成人の儀を執り行う…上山信広同志、神の御心のまま結ばれんとする魂の片割れとの契りを…」

そう宣言すると、仮面の男が俺の腹にドロリとした染料でまた不思議な模様を描いた。
最後に見たことない鐘を叩くと、それが合図となり、上山は発情期の犬のように俺に跨って体を引き裂いたのだった。


「はっ…はっ…やっと…やっと君と契りを交わせるんだ…ゆ、夢みたいだ…ああ、成人の儀で契れる子羊に選ばれたなんて…!」

小学生の時の遠足を覚えているかい?ほら、湖の近くで菜花を見に行っただろう?僕たちの出会った場所さ!入学式もあったんだろうけど、真の意味での出会いはあそこだったよね…!あそこで君は転んだ僕にハンカチを差し出してくれたんだ!!僕の膝小僧に君が手を当てた瞬間!そう!あの時こうなることが決まっていたんだ!!!運命なんだ…!!カミサマが決めてくれたんだ…!!!ああ、なんて素敵な運命なんだろう!


息をつかないくらいの早口でまくし立てた上山は、自分の言葉に自分で興奮したのか、しばらくしてブルリと体を震わせた。腹の中がじわりと熱くなる。おぞましい感覚に背筋をゾッとさせながらも、これで終わるという期待から少しホッとしている自分がいた。


しかし、そんなことは甘い考えだった。

「ああ…っ!?」

まだ硬さを保ったソレが体を突き上げてきたのだ。

「はっ…はっ…下澤君…この紋はね…選ばれた者にしか…印されない…特別なものなんだ…この儀式でちゃんと孕むよう…特別な力がある…特別な印なんだ…」


「くるってる…」

俺は男だぞ。
孕む為の印だなんて…俺が女だったとしても非現実過ぎる。馬鹿馬鹿しい。

そんな心を見透かしたのか、上山が耳元で囁いた。

「…意味、わかる?つまりね、この儀式は君が孕むまで続くってこと」
だから、ずっとこうしていられるね。ずっと。

この時初めて上山の目を見た。

「あ、あ、あああー!」

そこに確かな正気を見て取って気がおかしくなりそうだった。

嗚呼、カミサマ…もしいるのなら…。
「助けて…」

己の白濁でぐちゃぐちゃになった紋を見て、絶望した気持ちで目を閉じた。

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