秘密の花、あるいは真心
#一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負
第103回のお題より
・イラスト課題
やつかなえ様作(@tukanaya )『Mimosa』
『梅雨』
『合鍵』


『ねぇ、ミモザ祭りって知ってる?ミモザの花束を投げ合って、春の訪れを祝うんだって』

いつもあいつの事を思い出す時は、決まって春の時のことだ。
窓からは、ザァザァと梅雨の天気が見えるというのに。

『ミモザの花言葉は「優雅」だろ?随分乱暴な祭りだな?』

『ははっ、さすが会長。確かにね、こんな綺麗な花を投げ合うなんて勿体無いよね。花は自然に生えている時が美しいのに…』

高校の裏庭にひっそりと咲く秘密の花。その花は、秘密の花というには余りに優雅で、朗らかに咲き誇っていた。

けれども、不思議と亜麻斗がそこに行くと、花は落ち着いた雰囲気になる。まるで、素朴な亜麻斗に合わせるかのように。

『ねぇ…会長は知ってる?ミモザの花言葉は他にもあってね。会長にぴったりだと思ったんだーー』



ああ、あの時アイツはなんと言ったんだったか…
ミモザの他の花言葉。
『友情』と『秘密の愛』
あの時、俺は否定したのだろうか?
亜麻斗との『友情』を?
隠していた亜麻斗への『秘密の愛』を?

きっとどちらにせよ、否定したに違いない。きっとどちらも、照れて焦って、察しの良い亜麻斗には気づかれていたかもしれない。
けど、亜麻斗は優しいから…
高校を卒業するまで、何も言わず一緒にいてくれた。

傲慢な(一応自分でも自覚はしている)生徒会長と、謙虚な園芸部長という奇妙な取り合わせの密会は、いつもあの裏庭だった。
春だけ黄色が咲き乱れる、秘密の庭。


懐かしい過去に浸ってうつらうつら、微睡んでいると不意にチャイムが鳴った。
全くなんで、チャイムは耳触りの悪い音なのか。
のっそりと起き上がると、玄関の鍵を開ける。



「雨…すごく降ってるよ。駐車場からここまででもうビショビショ…」


「合鍵持ってこなかったのかよ…」

「あはは、忘れてた。多分昨日のズボンのポッケだ」

はい、と新聞紙に包まれた瓶を手渡される。

「せっかくの記念日に雨なんて、残念だけど、シャンパンでも開けてパーっとしようよ。理貴の為のオレンジジュースも持ってきたよ」

「…俺だけノンアルコールかよ」

ふくれると、頬にチュッとキスが落とされる。

「ふふ、とびきり美味しい『ミモザ』を作るよ。オヒメサマ」

語尾に音符が付きそうな口調で、キッチンに消えていった。

ああ、全く…


あの頃の素朴で可愛い亜麻斗は一体どこに…


まぁ、もちろん今のかっこいい亜麻斗にもだいぶグラリときているので何も文句は言えないのだが。

高校を卒業した途端、随分積極的になったかつての秘密の花園は、今日も俺のために『ミモザ』を作る。



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