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「ヨイチ!」
後ろでマッカイの声が聞こえた気がしたが、構うものか。
走って走って走って、住処にしてい森にある湖に着いた。
ここはよく水浴びをするためにくるが、夜中に来たのは初めてだった。
夜風が少し肌寒い。
昼は透明な水も、月明かりの少ない夜は黒く浮かび上がっている。
あんなに怒ったマッカイを見るのは初めてだった。
怒った原因が俺じゃないのが悲しい。
一体俺はどうしたんだ?
こんなん俺らしくない。
まるでヒステリックな女みたいじゃないか…
ああ、けど俺はもう男ってわけでもないんだった。
自嘲した笑みが口元に浮かぶ。
大体最近は気分の浮き沈みが激しいし、体調もあまり良くない。
体の変化か、異世界に来たストレスか。
腹の辺りがどうにも重たい。
偏頭痛持ちじゃあないのに、時折頭もズキズキと痛む。
体調が悪いとドンドン悪い方へ思考が傾く。
所詮獣人と人間じゃ、恋愛関係になるのは無理なのだろうか。
貞操だとか、そういうのも全然違うだろうし…
口ではああ言ってもマッカイも子孫を残すことが重要っぽいし…
グダクダと、堂々巡り。
俯いて水面を眺めた時だった。
何か気配がする。
誰か来る?
マッカイ…?
「おい…」
「アレ、例の精霊じゃないか?」
「本当だ!捕まえろ!」
違う!二人いる!
マッカイじゃない!
気付いた瞬間走り出す。
だが相手は獣人。
あっと言う間に追いつかれる。
「〜っ!!」
ゴンっと後頭部に衝撃を感じ、体が崩れた。
体が動かない。
頭がぼんやりする…
猿のような獣人に手をとられたところで意識がフェードアウトした…
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