さいごに知るは罪の果実
風紀委員長×ネクロフィリアな会長
パンデミックーーー。
ある感染症が世界的な流行をみせる様。世界で同時に大流行すること。感染爆発。
最後に調べた時にスクショを撮っておいた、スマートフォンを床に置いて外の様子を伺う。
俺は在郷悠史、生徒会長。
高校3年生になるはずだった男だ。
突然巻き起こったパンデミック。
冬休み前の終業式に、突如としてソレは現れた。
体育館後方で悲鳴が上がったと思えばあっという間だった。
現れたゾンビにあっけにとられた生徒がまず噛まれて感染し、その周りの生徒たちにまた感染し、逃げ惑う人とゾンビが入り混じり、まさにソレは某ゾンビゲームのようなパニック状態を作り上げた。
俺がたまたま逃げられたのは、生徒会役員として壇上にいたからだ。
顧問の先生に背中を押され、みんなを先導して避難口へ向かい、グラウンドへ逃げた。
しかし、気が付いたら後ろに誰もついて来ていなかったのである。
恐怖に駆られて一人で逃げた者、感染した者、感染した者を助けようと戻った者…。
考えられることは考えたが、あれから3ヶ月。俺は人間と会話できていない。
俺は職員の寮の管理室に立てこもっている。ここなら隠れるのにもってこいだし、ある程度周囲を見渡せる。
この山奥にある学園にまで感染が広がっているとしたら、街中はもっと酷いだろう。
途中まで繋がっていたインターネットも、電気もつかなくなった。売店から持ってきた食料がなくなれば俺もいよいよ危ない。
窓からゾンビ達がウロウロしているのが見える。3ヶ月も経つと奴らの生態も徐々にわかってくる。
生態その1、奴らは群れているようで単独行動しかしない。
1匹、今いる棟に侵入したのを確認して準備をする。食堂で見つけた包丁をさすまたに巻きつけた武器持って部屋を出る。
生態その2、動きを止めるには頭部、もしくは心臓を破壊しなければならない。
上に登ってきたのか声が大きく聞こえてきた。そしてーー。
「ピギャァ"アあ"ああ"ああ!!!」
人間ではありえない体勢をとったソレがこちらを向いた。
生態その3、奴らは俺たち人間の音に反応する。
何故奴らがこちらを襲ってくるのか…それは呼吸音のみならず、俺たちの心臓の音にすら反応しているからだった。
小さく息を吐きながら目の前のソレを観察する。ゾンビになってまだ日が浅いのか、まだ人間らしい原型を留めた個体だった。
許せ。
剣道2段の腕で、ゾンビの心臓を一突き。
『人間は案外骨に守られているから、刃をある程度寝かさないと臓器に届かない』型の時間、師範にそう教えられた時は、そんなこと実戦で使うなんて思っていなかった。
ソレの口から大量の血が吹き出し、完全に沈黙する。
生態その4、感染経路は口内で分泌される唾液のみ。
返り血を浴びたが問題ない。
それよりーーー。
『太ももに刺激を加えながら付け根の方へやると、意識がない状態でも海綿体が反応する場合がある』
死体の腿に膝を当てグリグリと刺激する。
まさか、ネットでの情報を鵜呑みにして、ましてや実践するなんて、3ヶ月前の俺は思っていなかっただろう。
弱々しく勃ち上がったソレを手にすると、俺は自分の衣服を緩めた。
己の性癖を完全に理解したのはいつだっただろうか。まず自分の好意の対象が男であることを認識した。そしてしばらくして、自分が最も興奮するものが死体であると気がついた。
「アッ…アッ…アン…」
最初は電気が途絶えたタイミングで、もう死のうと思ったのだ。死のうと思って、最期の思い出にと、死体と寝た。
翌日になってもゾンビ化しない自分の体を見て、噛まれない限り感染しないことに気がついた。
死者への冒涜とか、背徳心や罪悪感は確かにある。あるがそれがまた興奮してしまう。
イイトコに当たって腰が速くなる。
絶頂を迎えようとする時に、俺は足音にようやく気付いた。
しまった!!他にもゾンビがいたのか!?
万事休すーーー。
「悠…史?」
「か、和樹…?」
しかし、その足音はゾンビのものではなかった。
永元和樹。風紀委員長にして俺の片想いの相手だった。
「驚いた」
それはどちらの意味だろう?
まぁ、ダブルミーニングというやつだろう。
なんせもう人間がいないと思っていたのにいる上に、そいつはゾンビに跨ってアンアン喘ぐ変態なのだ。
死にたい…。
世が平和ならこんな醜態を片想いの相手に悟られることもなかったのに…!!
落ち込んでいる俺を見て和樹が、こう言った。
「嬉しいな!お前が生きてるなんて…!なんて日だ!」
そして乱れた服のままの俺を抱きしめて笑った。
どうやら和樹は、部室棟に立て籠もっていたらしい。金属バットを持って自衛していたが、壁を壊されたのをきっかけに隣の棟、つまり今いる職員の寮棟へと来たというらしい。
「もう誰も生きていないと思った」
「残念だったな、生き残りがこんな変態で」
「ふ、誰にも秘密や痴態があるだろう?それにこんな状況じゃ普通にしてろっていうのも無理だぜ」
この3ヶ月、和樹も様々なことを見たり、経験したのだろう。苦笑する瞳は悲しげだったーーー。
その後俺達は2人でサバイバル生活を送った。
遠距離で俺が攻撃し、取りこぼした個体がいたら和樹が金属バットで頭部を破壊する。
中々うまい連携だった。
もしもの時は俺が庇える。
不純だが、剣道を習っていてよかったと思った。
「なぁ…お前は性欲とかないのか?」
2人でいる生活に慣れた頃、気になっていたことを聞いてみた。
「マス掻いてるみたいじゃないし…」
「ぶっ…!?別に普通に性欲はあるぞ!?」
「え、あ、相手いないとダメなタイプ…?俺はウェルカムだぜ?あー、まぁゾンビ相手にしてる汚い体の…」
変態は嫌だよな、と笑って続けようとしたら押し倒された。
「そうじゃない」
小さく笑ってこう続けた。
「お前も感じないと意味がない」
そして、額にキスを一度だけ落とすと背中を向けた。
「おやすみ」
そう言った耳が赤くなっていたので、俺まで赤くなってしまったーー。
翌日、また数匹俺たちのいる棟へ侵入した。
いつも通り…いつも通り…。
あの反応…まさか、な。
いや、いつも通り…。いつも通り…。
昨日のことを思い出さないようにしながら、順調に突き殺していった時だった。
「あっ…」
刺股に付けていた包丁がとれてしまったのは。くそッ、この…っ!和樹だけでも…!
そう思って身を顧みず包丁を拾いに行った。
ブヂチッ…ガブリ!
そんな訳なかった。そんな筈…なかった。
何故…。
「和樹…」
なんで俺なんかを庇ったんだよ、和樹…!
和樹は俺を襲う個体を潰すと同時に、その個体に首筋を噛まれていた。
「あ…悠、史…俺を…殺せ…」
「できない…!和樹…っ!そんな…!」
和樹は震える手で俺の手を掴むと、包丁の先を自らの胸へ押し当てた。
「殺さ、レル…なら"…オ、お前に…」
「あ…う、うああああああああああ!!!」
まっすぐな瞳を見つめながら、包丁を突き入れた。
『刃をある程度寝かさないと臓器に届かない』
涙で濡れた目でしっかりと和樹を見つめる。
血で濡れた手から力が抜けて包丁が落ちた。
「和樹…和樹…和樹…っ」
俺はお前さえ生きていたら…。
呆けた頭でノロノロと服を脱ぐ。
『お前も感じないと意味がないだろ?』
そう言って押し当てられた唇の熱さを思い出しながら、俺達は最初で最後のセックスをした。
『太腿から徐々に付け根を刺激する』
和樹のソコはまだ温かかった。
悲しくて、虚しくて、苦しくて、気持ちがいい…。
腰を振りながら、気持ちが良くて気が狂いそうだった。これが恍惚とした快感なのだと知る。それとも俺は、もうとっくに狂ってしまっていたのかもしれない。パンデミックが起きた段階で、死体と寝た段階で、和樹を殺した段階で。
頭の芯が痺れて、己が達したことを悟る。
息も服も整えないまま、俺は最期に和樹の唇を貪った。
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