君のためなら
「きゃー!」
暴漢の前に躍り出たのは最早犬としての本能だった。
主を守りたいと思ったのは果たして犬としてか、一人の男としてか。
とにかく本能の従うまま暴漢へ噛みついた。主が泣きながら「もういいから!ジェイン、落ち着いて!ジェイン!」と叫ぶまで、だ。
「冗談じゃないわ?ジェインを処分しろですって
」
…さすがの暴漢もドーベルマンに噛みつかれれば無事ではすまない。
ー全治二週間の怪我を負った暴漢が、さも被害者のように、慰謝料を請求してきたのは三日後のことだった。しかも私が問題になっているらしい。
主は正当防衛だ、こちらが被害者だと主張した。しかし、気がついたら論点が人間を襲う危険なドーベルマンの話になっている。
相手が悪い。
女学生の主と権力者だったらしい男。どちらが勝つかなんて火を見るよりあきらかだった。
しかし、それでも主は私を処分する気はないらしく、男に直談判しにいくと言って聞かない。
そんな危険なことはさせられない。主が危険な目に遭うのなら処分されても構わないし、もし行くのなら私も一緒に行く。
…最悪正体を明かしてやれば、男も驚いて大人しくなるだろう。
私は獣人だ。
人間の歳で15になったくらいから、犬の姿から人の姿へ一定の時間だけ変化できた。
人の姿をすると主が何やら困るようなので、極力犬の姿をしている。しかし、この非常時にそんなことも言ってられない。
今にも飛び出しそうな主を宥め、私は人の姿へ変化した。
「じゃ、脱いで」
「は?」
主と二人で男の屋敷へ赴き、説明してやった。ら、顔にガーゼを貼り付けた男は驚きもせず平然とそう言ったのだ。
まぁ、確かに信じろという方が無理かもしれない。
人と違うという部分を見せなければ。
女である主に裸を見せるわけにはいけないので、頼んで別室にて待機してもらった。
不安はあったが、「お茶でも飲んでおくといい」と老執事に命じているあたり大丈夫そうだ。
パタン。
「……」
改めて、二人きりになると気まずい。
「さぁ、」
そっ、と衣類に手をかける。
人と違うという所は腰から伸びた黒い尾と、私の雄の部分だった。
主の前では気恥ずかしいが、男の前では、なんてことない。下着もさっと取り払ってしまう。
「へぇ…」
「…っ」
が、男の舐めるような、楽し気な視線にカァっと羞恥が頭に上る。
「なるほどね、見た目は細身で筋肉質なおにーちゃんだけど…」
「
」
「ココは犬ころなんだー。へー。」
あらぬ所を掴まれて体が震えた。
そしてあろうことか、男は忘れたの尾の付け根をさするように触れてきた。
「ひ……!」
「ん、アレー?」
そこを触られたら、駄目だった。発情期のように息が荒くなってくる。腰から甘い刺激が湧き上がってくる。
「ぷっ、ははは!何勃たせてんの?グロいんだけど、ウケるわー。」
ま、好都合だけど。というが、早いか。男は私を膝の上に抱き寄せた。
「…何をする。」
「いいからほら、上も脱げよ。可愛いご主人サマを守りたいんだろ?俺が満足したら何もしねーよ。さっさとお前は俺の言うこと聞きけばいいんだよ。」
…っ!
私が我慢すれば良いんだ。
こんなものなんてことない。なんてことないんだ。
男の手が私のモノに絡む。
そして片手は尻の割れ目へ伸びた。
最低な異物感に顔を顰める。
どこに性的な興奮を見出したのかわからないが、男の顔は紅潮している。私の体は反応こそするものの、心が冷えていたので冷静に男を見下ろす。
私の目線が気に入らなかったのか、男は鼻を鳴らすと慣らすのもそこそこに、私の腰を上げ、ソコに昂りを押し付けてきた。
「…せいぜい喚きな」
「っーーー!!」
あまりの衝撃に目の前がスパークした。痛いというより熱い。
こんな奴に屈するのも癪なので、声だけは、と。口を噛みしめる。犬歯が唇を切ったが、構うものか。
「はっ…ヨユー、こいてんじゃねーよ!」
すると、突き上げる腰はそのままに。再び尾の付け根と、雄の部分に手を触れてきた。
「ぃっ…ひ…!」
思わず、声が漏れる。
痛い。気持ちいい。痛い。痛い。気持ちいい。
ごちゃまぜの感情が頭をドロリと溶かす。
ああ、なんと浅ましい。
確かに私は快感を拾っていたのだ。男の突き上げが、中のしこりを刺激し、腰に力が入らなくなる。いたずらに弄られたそこからは透明な液体を溢していた。
なんで、こんな…
つう、と一筋耐えきれず涙が零れた。
それに興奮したのか、突き上げが激しくなり、暫くするとグッと最奥へと押し込まれた。
ドクドクと生温かい何かが、中に注がれる。その刺激で私はイッた。この侮蔑すべき男に、私はイカされたのだ。
絶望で目の前が真っ暗になった。
こんなこと、なんてことないじゃ、ないか。主を守れたんだ。なんてことない。なんてこと…
「は、エッロ」
犬だから量も多いのか。
犬ころは、自らが出した白濁で体を汚していた。褐色の肌によく映える。
ずるりと抜くと、意識がないのか、力なくこちらによりかさってきた。
「いいねー。気に入ったよ」
ご主人サマはまぁ、無事に返してあげるよ。ご主人サマは。
犬ころの短い髪を撫でながら、こいつをうちで引き取る算段を考える。
まだまだ、俺は満足してねーからな。せいぜいもっと楽しませてくれよ。
俺ガ新シイオ前ノゴ主人サマダ。
end
- 1 -
戻る