Waltz for the moon


「エース、踊らない?」

「踊る?」


教室で本を読んでいると、レムにそう言われ、エースは首を傾げる。突然そう言われてもピンとこないが、レムは何処と無く楽しそうな表情をしていた


「うん、この間デュースから借りたんだけど、ワルツ用の曲だったからエースと一緒に踊ってみたら?って言われたの」

「なるほど…」

「だから踊ってみない?」

「踊るのは構わないが、僕は踊り方は分からないぞ」

「大丈夫、私もよく分からないから」

「(それは大丈夫とは言わないんじゃ…)」


レムは何故か教卓の上に置いてあるCDプレイヤーの置いてあるところまで行き、デュースから借りたCDをプレイヤーの中に入れて流した


プレイヤーからはテンポが良く、軽快な音楽が流れてきた。エースが呆然としていると、レムはエースのところまで戻り、彼の手を取り、教卓の近くまで連れていった


「さ、踊ってみよう?」

「お、おい…」


レムは戸惑うエースを気にすることなく、エースの左肩に左手を置き、右手はエースと手を繋ぐ。エースが左腕をレムの腰に添えると、レムはいきなり動き始めた


「レ、レム」


レムの動きについていけないのか、エースの動きはぎこちない。上手く踊れていないせいか、不恰好なダンスになっていた。普通ならここで自分がリードしなければならないのに情けない


「大丈夫、慣れれば結構楽しいから」

「慣れればって…レムは動きが器用だな」

「そんなことないよ。私だって最初は上手く出来なかったんだから。でも、エースと踊りたかったから頑張って覚えたんだよ」

「レム…」

「えへへ…あ、でも安心してね?練習はデュースとしたから」

「そ、そうか…それならよかった」


これがデュースじゃなくてマキナと練習していたならマキナの命は(確実に)ないだろう。と言ってもレムはエースと恋人同士になってからマキナと話すことを殆んどなくなったため、そんなことを心配しなくても大丈夫なのだが


暫く2人で踊っていると、ぎこちなかったエースの動きも段々軽やかになっていく。元々エースは器用だ。エースの動きが軽やかになればなるほど、レムは嬉しくなった


「エースって呑み込みが早いね…」

「そうか?レムの教え方が上手いからじゃないのか?」

「うーん…教えてるっていうよりは動いているだけっていうのが正しいかもしれない。特に何か言ったりとかしてないでしょ?」

「そうだな…」

「ふふ」

「どうした?」

「ううん、なんでもない。それより、1回最初から踊ってみようよ。もう大丈夫でしょ?」

「ああ」


エースはレムの腰に自分の腕を添え、レムはエースの左肩に手を置き、右手はエースと手を繋いだ。曲が最初から始まると、2人は踊り始めた。教室にはエースとレムしかいなかったが、2人はそれでもよかった。華やかな舞台よりも2人で踊れることの方が重要だったから


「……楽しいな」

「ん?」


エースは微笑を浮かべながら言った


「レムの言ったことが分かるような気がする」

「でしょ?」


慣れるまでは戸惑うばかりだが、慣れてしまえばどうってことはない。そう素直に思えた。そう思った時、曲が終わった


「あ、終わっちゃった…」

「結構長かったんだな。曲」

「曲も長かったけど、踊っていた時間も長かったってことだよね」

「そうだな。レムと一緒にいると時間の流れが早く感じるよ」

「エース…うん、私もそう思うよ」


でも、時間の流れが早いとまた直ぐに戦争に行かないといけなくなる。このまま時間が止まって欲しいと思ってしまう。レムはエースの手を強く握りしめた


「エース…あのさ…」

「レム、曲をもう1回かけて踊らないか?」

「え?」


エースの言葉を聞いてレムは目を見開いた


「僕はまだ踊り足りない。踊っていたとはいえ、慣れるのに時間がかかったからな。だから、もう少し踊りたいんだ」

「エース…うん、喜んで」


レムはエースから離れると、もう一度曲をかけ直した。プレーヤーから再び軽快な音楽が流れ出し、エースの元へレムは戻る。エースの差し出した手を取り、2人は踊り始めた


エースがきちんとリードし、レムはそれについていく。2人は曲が終わるまでずっと踊り続けていた



終わり


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