休暇中の一時
今日はいい天気だ。雲1つない青空なのに誰もいないテラスで2人きり。エースとレムはそこにいた。恋人同士になってから任務続きで中々2人でいられる時間が取れない。貴重な時間を無駄にはしたくなかった
「2人でいられるの、久しぶりだよね」
「確かに…任務ばかりが続いていたし、ゆっくり出来なかったからな」
「うん…」
クラスが一緒でも、任務があっては2人でいられる時間はあまりない。近くにいるのに一緒にいられないのは寂しいものがあった
「えへへ…」
レムは自分の隣に座っているエースにぴったりとくっついた
「ど、どうした?」
エースは突然のレムの行動に身体を強張らせた。嫌な訳ではない。むしろ嬉しかった。恋人らしいことなんて滅多に出来ないし、何よりレムからしてくれるとなんだか可愛らしく見えてしまう。これも惚れた弱味なのかもしれない
「こうしたいなって思ったの。嫌だった?」
「そんなことはない」
「そう?よかった」
エースの肩に頭を置く。レムの行動は無意識なのかどうかは分からないが、その行動は恋人らしいものだった
「というか僕がレムに嫌だなんて言うわけがないだろ?」
「え?あ、ありがとう…」
エースは微笑を浮かべながらレムの頭を撫でる。レムはエースの言葉が嬉しくて顔を赤くした。レムの方が積極的だったりするのだが、エースの行動には弱いところがある。甘やかされるのは彼女の特権というものなのかもしれない
「そこは礼を言うことじゃないと思うんだが…」
「いいの、気にしないで。私が言いたかっただけだから」
「そうなのか?」
「そうなの」
まあ、レムがそう言うならいいか…とエースは呟く。納得出来るかどうかは曖昧だが、本人がいいならそれでいいのだろう。エースはなんだかんだ言ってレムには甘いのだから
「…………」
「…………」
エースとレムはお互いに無言だった。もしシンクやジャックがこの様子を見ていたら「つまんな〜い」とか「何か話せばいいのにね〜」と緊張感のない声を上げているだろう。でも、2人はそれでもよかった
言葉なんて交わさなくても、一緒にいられればそれだけでいいのだから
レムがそっとエースの手を握ると、エースはそれに気づき、レムの手を握り返す。レムはエースの行動が嬉しくてはにかんだような笑みを浮かべる。それは恋する少女そのもので愛らしいものだった
「ねえ、エース」
「なんだ?」
「私、エースとこうしているの好き」
恥ずかしいのか俯きながら話すレム。エースはそんな彼女を優しい目で見つめていた。普段は表情を変えないエースがレムにだけ見せる目だ。レムは俯いているため、今のエースの表情は分からなかった
「今は戦争をしてるからいつまたこうやって2人で会えるのかは分からない…もしかしたら戦争中に死んじゃうかもしれない」
「…………」
寂しげに話すレム。エースは何も言わずにレムの話を聞いていた
「だから、こうやって一緒にいられる時間を大切にしたいなって…そう思ったの」
「レム…」
「ごめん…折角の2人きりなのに暗い話をしちゃって」
レムは更に顔を俯かせる。エースは別に気にしていなかった。自分もレムと同じで2人一緒にいられる時間が大切だと思っているから。レムの言うように戦争をしている今ではいつ死んでしまうのか分からない。死んでしまったらクリスタルの加護で死者の記憶は失われる
失われると残るのは虚しさだけ。何かが物足りないと思うが、それを気にかけることもなくなってしまうのだろう
「大丈夫だ」
「え?」
俯いているレムの頭にエースの手が置かれる。レムは少しだけ俯かせていた顔を上げた
「レムの言うようにいつ死んでしまうのかなんて分からない。でも、僕はレムを置いていったりはしないよ」
「エース…」
「だから、そんな悲しい顔をしないでくれ。レムが悲しいと僕も悲しくなるから」
「………!」
レムはバッと顔を上げてエースの顔を見た。エースは心配そうにレムを見つめている。エースを不安にさせてしまったかもしれない。だが、エースは真剣な眼差しでレムのことを見ていた。困っているようには見えなかった
「エース…ありがとう」
「いや、いいんだ。それにもし任務が一緒になった時は僕がレムを守るから。だから心配しないでくれ」
「うん…私もエースを守るよ。私だって戦えるし、魔法が使えなくても援護だって出来るから」
「レム…」
レムはエースの腕から離れ、エースの手を握った。自分の指を絡めるとエースも同じように指を絡めてくる。エースはレムの肩に頭を乗せた
「エース?」
「ごめん…天気がいいせいかなんだか眠くなってきたみたいだ」
「いいよ、寝ても」
「でも…折角レムと2人でいるのに寝るのは…」
「大丈夫だよ。それに寝不足で任務に支障が出たらエースだって嫌でしょ?」
確かに。任務に支障が出たら仲間達に迷惑がかかる。折角レムと2人なのに寝てしまうのは嫌だが、任務中やられてしまっては話にならない。エースはレムの言葉に甘えて眠ることにした
「でも、寝るなら肩じゃなくてここね」
「え?」
レムは自分の膝を指を指す。エースは一瞬目を見開き、レムの方を見る。レムはエースに微笑んだ
「膝枕してあげる。これはエースにしかしないからね」
「…………」
「さ、横になって」
エースはレムに言われ、頭をレムの膝に乗せた
「(暖かいな…寝てしまいそうだ…)」
「寝ていいんだよ。時間になったら起こしてあげるから」
「すまない…じゃあ、少しだけ眠らせてくれ」
「分かった」
エースは目を閉じてそのまま眠りに落ちていった。レムはそんなエースの頭を撫でて小さな声で呟いた
「おやすみ、エース。いい夢を見てね…」
終わり
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