約束


些細なことがきっかけで好きになるということは本当にあるものなんだと今、俺は実感していた。最初はただ父の仇でもあるセリスの大切な人を殺そうと思っただけだった。でも、どういうわけかセリスに近い存在でもあるユリアに俺は惹かれてしまった。どうしてなのかは俺にもよく分からない。ただ知らない内に好きになったとしか思えなかった。セリスとユリアは仲が良かったし、お互いに惹かれ合っているようにさえ思う。だが、俺とユリアが恋人になったのはセリスとユリアが兄妹である真実を知る前だった


我ながらバカなことをしたな。ユリアを好きになる前に殺しておけばよかった。シグルドの子供ではないにしろ、ユリアはセリスの妹。それが分かっていたら俺はきっと、恋人になる前にユリアを殺していたかもしれない


「今更だな…」

「アレス、どうかしたの?」


今は最後の戦い。拐われたユリアを助けた後、ユリウスのいるバーハラへと足を進めていた。ロプトウスの宿敵でもあるナーガの血を引くユリアにしかユリウスは倒せない。情けない話だが、俺はユリアの盾になることしか出来ないようだ。それがとても歯痒い。ユリアは肉親を殺さなければならないのに俺は…


「ユリア…お前は辛くないのか?」

「え?」

「ユリウスと戦うことだ。お前の肉親はもうユリウスしかいないだろう」

「…そうね」


ユリアはぽつりぽつりと呟いた


「アレスの言う通りユリウス兄様と戦うことは辛いわ。でも…」

「でも?」

「これは私の償いでもあるから。シグルド様のこと…お母様のこと…私はナーガの血を引いているから闇に呑まれたユリウス兄様を解放出来るのは私しかいないもの」


辛いはずなのにユリアの声は凛としていた。微かに震えているように聞こえて思わずユリアを抱き締めた。なんて華奢な体なんだろうか。そんな細い体で背負っていくつもりなのか?


「アレス…」

「何も出来なくてすまない…俺にはお前の罪を一緒に背負うことしか出来ない」

「そんなことないわ。アレスは私の側にいてくれるのでしょう?」


ユリアが俺のそっと頬に触れる


「それだけで十分よ。あなたがいるから私は平気なの」

「……………」


淡くて儚げな笑みから見えたのはユリアの決意。全てを償う覚悟…


「今はまだあなたの側にはいられない。この戦いが終わっても…」

「そうか…」

「…全てが終わったらでいいの」

「え?」

「あなたのアグストリアの再興が終わって私の償いが終わったら…迎えに来てね」

「ああ…約束する」

「その約束があれば、私は頑張れるから」


果たされる約束を信じて戦う…


終わり


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