不安な未来
雪の降る街の中をシルヴィアは歩いていた。とくにこれといって目的がある訳ではないが、なんとなくだった。色々なことがありすぎて頭も冷やしたかったし、こんな時にどうかとも思うが、観光もしたかったから
「…………」
真っ白な雪。いつかはシレジアに来たいと思っていたけれど、こんな機会でなければよかったのに…シレジアがレヴィンの故郷だと分かったのはフュリーやマーニャがシレジアの天馬騎士であることから分かっていた。前はレヴィンに想いを寄せていたシルヴィアだったが、今のレヴィンにはティルテュがいる。シルヴィアにも恋人はいた
「シルヴィア、こんなところにいたんだね」
それはアゼルだった。この二人にはこれといった共通点はないが、アルヴィスのことで悩むアゼルを励ましてくれたのがシルヴィアだということ。無邪気なシルヴィアの笑顔には何度も救われてきたらしく、気がつけばシルヴィアに好意を抱くようになってきた。そして二人は結ばれ、恋人同士になったという
「アゼル、どうしたの?」
「それはこっちの台詞だよ。こんな薄着でしかも一人で出掛けていったから心配になったんだ」
アゼルは持ってきたマントをシルヴィアに羽織らせた。薄着をしていたシルヴィアの体はとても冷えていた。いくら彼女が寒さに慣れているとは言ってもここは雪国だ。風邪を引いてしまう確率は高い
「ありがとう。でも、わざわざこっちに来なくてもよかったのに…寒いでしょ?」
「それはシルヴィアも同じだよ。こんな寒い中薄着で出掛ける方がよっぽどだからね」
「あはは、そうかもね」
シルヴィアは無邪気な笑みを浮かべた
「でも…外に出たい気分だったの。中にいても色々ゴタゴタしてるから」
「ゴタゴタか…やっと落ち着いてきたところだもんね。シグルド公子のこととか」
「そうだよね…シグルド様も他の皆も…」
ディアドラの失踪、反逆者の汚名…色々なことがありすぎた。シレジアまで逃げられなければ、きっと全員殺されていたかもしれない
「寒い…な」
「じゃあ、少し暖まろうか」
アゼルは手に炎を纏わせた。微かな炎だったが、暖かくて安心出来るものだった。シルヴィアはアゼルに寄り添い、二人は近くの木陰に座った
「小さな炎でも暖かいね…あたし、アゼルの炎が好きよ」
「ありがとう、シルヴィアにそう言ってもらえて嬉しいよ」
「アゼル…」
シルヴィアはぎゅっとアゼルの体を抱き締める
「あたし…あたしね…」
「どうしたの?」
「もし…この先何があってもアゼルは私の側にいてくれる?」
何故シルヴィアが今そんなことを言うのかアゼルには分からなかった
「僕はシルヴィアの側にいるよ。どうしたの?君がそんなことを言うなんて…」
「ううん…不安になっただけなの」
ブラギの血を引いているから少しだけ見えた未来にシルヴィアは不安を覚えていた。戦っていったらアゼルを失うんじゃないかと思うくらいだ。シグルドとディアドラのような別れ方などしたくない
「ごめんね…いきなり泣いたりして」
「…いいんだ」
アゼルは一度炎を消すと、シルヴィアを強く抱き締めた
「未来が…」
シルヴィアの声は震えていた
「未来がね…少しだけ見えたの…皆が死んでしまう未来を…それが現実になるのが怖いの…」
「シルヴィア…」
「アゼル、あたしの側にいて離れないでいてね」
「うん…シルヴィアが望むなら」
その願いは叶わない…今の二人にはそんなことなど分からなかった
終わり
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