優しい手
コンコン
「ティルテュ、いるか?」
「いるけどちょっとだけ待っててー」
朝食が出来たからティルテュを呼びに来たレヴィン。彼女を起こしに行くのはシレジアへ逃亡してから彼の日課となっていた。レヴィンとティルテュは恋人同士だから不自然ではないだろう
「うーん…上手く纏まらないなあ」
一方、レヴィンを待たせているティルテュは鏡を見ながら悪戦苦闘をしていた。具体的に何をしているのかというと、髪を結おうとしているのだが、上手く結べずにいた
「あーもう!なんで今日に限って上手く結べないのよ!」
焦れば焦るほど結べなくなっていき、髪はますますボサボサになる。ティルテュは思わず櫛をドアの方へと投げた
ゴンッ
「うわっ」
運悪くティルテュが投げた櫛はドアを開けたレヴィンに的中し、ティルテュは目をぱちくりさせる
「痛ぇ…」
「あ、レヴィン!ごめん、大丈夫だった?」
ティルテュはレヴィンの側に駆け寄り、彼の赤くなった額に軽く触れた
「ああ、大丈夫だ。それよりなにしてたんだよ?いつもならすぐに出てくるのに今日は遅かったな」
「あー…うん。ちょっとね」
「ちょっと?」
ティルテュは櫛を拾ってレヴィンに見せる。何故櫛が出てくるのかは分からなかったが、いつものティルテュと髪型と違うのに気がついた。いつもポニーテールなのに今は下ろしている
「実は髪が上手く結べなくて困ってたの。結べるのに今日に限って駄目なのよ」
「なるほどな。それで櫛が飛んで来たわけだ」
「ご、ごめんなさい…悪気はなかったの」
シュンと落ち込むティルテュを見てレヴィンは苦笑を浮かながらポンポンと軽く撫でる。気にするなという意味なのだろう
「じゃあ、俺が結んでやるよ」
「いいの?」
「その方が早いだろ。貸してみろ」
レヴィンはティルテュを椅子に座らせて櫛を取ると彼女の髪をゆっくりととかしていった。その仕草は器用なもので不思議と手慣れているようにさえ感じた
「レヴィンって結構手慣れてない?」
「そうか?」
「うん、手つきが優しいもん」
「それは褒めてるのか?」
「ノーコメントでお送りするわ」
複雑な回答にレヴィンは微妙な顔つきになる
「じゃあ、俺もノーコメントにしておく」
「えー…」
ティルテュが不満げな顔をした。すると…
「ぷっ…」
「ふふ…」
お互いに笑いあった。そんなことをしている間にティルテュの髪型はいつもと同じポニーテールになった
「これでどうだ?」
レヴィンは鏡をティルテュに渡した。ティルテュは鏡を見て嬉しそうに笑った
「すごい!ありがとうレヴィン」
「喜んでもらえてよかった。じゃあ行くか」
「行くってどこに?」
レヴィンは思わずコケそうになる
「…朝食だよ。そのために迎えに来たんだ」
「そうなの?手間かけさせて本当にごめんね」
「気にするな。ティルテュに待たされるってのも俺の特権だからな」
「なあに、それ?」
「秘密だ。ほら、行くぞ」
レヴィンはティルテュの手を取って歩き始めた。ティルテュも彼の手を握り返すと、お互いに微笑み合いながら朝食を食べるために食堂へと向かった
終わり
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