真っ白なブーケ
おめでとう、真っ白なブーケを片手にキミは小さく笑ってる。
あのブーケはボクがさっき彼に上げた花束。
どうやらボクは仕事のせいで、式には参加できそうにない。
「…お幸せに、蓮くん。」
なんて悲しい言葉だろう。
何故、運命はこんなにも残酷に大好きなものを遠ざける
ブーケの中の、白妙菊が小さく揺れる。
真っ白な葉っぱの上にキミの色の小柄な黄色
キミと彼女にぴったりの色。
それはそれは、とても切ない
ボクらはこうしてしばらく二人、無言で向き合った。
キミもボクももう大人。
だから涙は見せない代わりに、これ以上何も言葉にしない。
―…愛してた、本当に愛していた―
朝の眩しい光の中でも、昼の暑い日差しの下でも、夜の切ないライトを浴びても
いつもいつも、心にはキミがいていつもボクを支えていてくれたはずなのに
なんで神はこんなに切ない最期を齎(もたら)したのであろう
「じゃあね…さよな…――」
“さよなら。”
口に出来なかった。だってそんな事言ったらキミはもう二度とボクの前に現れてくれない様な気がしたから
だから
さよなら は本当の最後に言うべきだ、とボクが思った。
「蓮くん…っ」
勇気を出して思い切り吐き出した
あなたの名前を
震えてる脚がボクの心までも素直に表したでしょう…
「――!?」
驚いたキミの顔、それはボクが抱きついたから。
思い切り、強く、抱きついた。
この思いが途切れないように
「リゼルグ…!?何を、しているんだ…?」
「………」
「……」
「……ごめん…なさい。」
自分でも驚いた。まさか謝罪の言葉がボクの口から出てくるなんて。
その時、ちょうど12時を伝えるチャイムが鳴った。
ゴーン、ゴーンと
それは切ない、そろそろ帰らなければいけない時間。
時間なんかどこかへ行ってしまえよ
大切なこのトキが途切れてしまうから
「…そろそろ、帰るね。」
あんなに好きだった時計の音がこんなに苦しい音になる。
一緒にいると嬉しかったキミが、一緒にいると切なくなるのとどこか似てた。
ボクはキミに後ろを向いて歩き出した。
キミは何も言わない、ボクを追いかけない。
愛してるとももう聞かない…。
今になってやっと分かった。
真っ白なブーケ、それは切ない失恋物語。
(2009/11/11)
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