「ありがとうございました」

「はいよ、また来てな」


市街地から少し離れた場所にその店はあった。魔導士御用達のそこは誰もが想像する、そのままの店だった。外から見ても、中に入っても怪しい雰囲気を漂わせるこの店にヤムライハに連れられて初めて来た時は緊張したものだ。なまえは紙袋いっぱいに入った実験道具を両腕で抱え直しながら、当時のことを思い出して苦笑した。今では一人で出入りできるようになった。ヤムライハに頼まれたお使いも無事に終わった。さて早く帰ろうとなまえは大通りを経由して王宮に帰ろうと頭の中でルートを考えつつ、歩き始めた。







店から歩いて数分後、なまえは頭の中で描いたルート通りに進み、大通りを歩いていた。露店が隙間なく並ぶこの通りは毎日賑わいを見せ、絶えず人が行き交う。人の隙間を縫うように王宮を目指して歩く。これは帰るのに時間がかかるかも。荷物の重さが両腕を襲う。これはどこかで休憩した方がいいかもしれない。早速休憩場所を見つけようとキョロキョロと周囲を見渡していると、誰かに肩を叩かれた。


「なまえ!」

「アリババ!今日はシャルルカンさんと一緒に港の警護に行くって…」

「交代してきたんだ。暇だからこの辺ぶらついてたんだよ。なまえは?」

「ヤムライハさんのお使いで少し外れのお店に行ってたの。その帰りで…」

「へぇー!何買ったんだ?」

「あっ、見ない方が…」


アリババは紙袋の中身が気になったのか、紙袋の中を覗き込んだ。そして後悔した。何やら怪しい色や形をした草や花はまだいい。なんで動物が入ってるんだ。これも魔法で使うものなのか。というか売ってるのか、これ…。一気にテンションが下がったのが誰の目から見てもわかるほどだった。間に合わなかったか。なまえは片腕で紙袋を持ち直し、中身が見えないように紙袋の端を折り曲げようとしていると、不意に荷物の重さが無くなった。


「うわ、けっこう思いなコレ!よく今まで持ってられたな」

「あ…」

「もう王宮に戻るんだろ?俺が持つよ」

「あ、ありがとう!」

「代わりと言っては何なんだけどさ…」

「うん?」

「中身見えないようにしてくれないか…?」

「あ…」


気づかなくてごめんなさい。なまえは慌ててアリババが持ってくれた紙袋の端を折り曲げて中身が見えないようにした。偶然とは言え、彼に会えたのは良かった。賑わう大通りに一人は寂しいものがあったし、重い荷物を持ってもらえたのだ。無理して片腕で持とうとしたのが悪かったのか、負担のかかった腕を無意識に擦るなまえをアリババは見逃さなかった。持ってよかった。お節介かとも思ったけど、やっぱり無理してたんだな。良いことしたぜ!アリババは鼻歌まじりに足を進める。それになまえもついていった。

荷物を持ってもらったのだ。これ以上迷惑をかけるわけにはいかないとなまえはアリババの背中を追う。しかし人通りの多いこの道ではそれも難しかった。アリババは歩調を緩めて歩いてくれているはずなのに、少しずつ、だが確実にアリババの背中が遠くなっていく。いけない、早く追いつかなければ。小走りでアリババに近づき、ホッとしていたらまた離れている。その繰り返しにどうしようと頭を抱えることになってしまった。隣で並んで歩こうとしても通行の邪魔になってしまうし…。うんうん悩んでいると、不意にアリババが振り返った。


「大丈夫か?ほら」

「え…」

「手、繋げば逸れないだろ?」

「…ありがとう。さっきからお礼ばっかりね、私」

「そうか?たまにはいいトコ、見せなくちゃな!」


あの重い荷物を片腕で持ち、こちらに手を差し出すアリババ。なんだか今日は頼りっぱなしだなぁと思いながらもこの気遣いに感謝し、自分の手を重ねる。私の手をすっぽりと包む彼の手はとても暖かくて安心できる。私が両腕で抱えても重くて苦労した荷物を片腕で持ち、更にこちらに気を遣ってくれるなんて。いつも一緒の男の子に大切にされ、女の子のような扱いを受けるのが、なんだかとても照れくさくて。なまえは目の前の大きな背中を見るのが急に恥ずかしくなり俯いた。髪の隙間から覗く耳は真っ赤で、暫く顔は上げられそうにない。




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