1「指輪」
メインストリートを歩く二人の女性に、サンマリーノの男たちはついつい振り返った。思わず口笛を吹きたくなるほど、類い稀な容姿の女性たちである。


一人は金髪で涼しげな目元をした美女。もう一人は、オレンジの髪を一つに結い上げ、イキイキと跳ねるように歩く少女。
金髪の女性の方が年上らしい。穏やかな眼差しをペチャクチャと小鳥のように愛らしい声であれこれ話す少女に向けている。


仲が良さそうに見えるが、二人は姉妹ではない。
夢と現実、二つの世界を行き来する不思議な旅を続ける仲間であった。
そして魔物退治をしながら世界をめぐる、なかなかの腕の持ち主である。




サンマリーノの南、森の中に住むグランマーズの占いを指針にする彼女ら一行は、グランマーズにこき使われる男性陣を置いて二人だけでショッピングと洒落こんだ。


町へ繰り出すのにもれっきとした意味がある。


夢の世界に起きた異常は、必ず現実の世界にも何らかの変化をもたらす。
その情報収集も兼ねているのだ。
彼女らは、夢の世界と現実の世界、二つの世界に影響を与えることができる稀有な存在なのだった。
「今、何が起きているのか」「どんな変化が起きたのか」を、常に気にしながら旅をしている。


そして当然、情報以外にも旅に必要な物がある。
腹が減っては戦は出来ぬし、魔物を相手にすれば怪我も絶えない。

二人は道具屋にふらりと立ち寄った。

◇◇

「このくらいでいいかな?」
「そうね」


山と積まれた毒消し草や薬草、旅の間の非常食などをカウンターに乗せると、店の主人は眼鏡を直しながら目を白黒させた。


「こ、こんなにご入り用で?」
「ええ」「うん」

さらりと答える美人に、主人は「はぁ……」と答えるしかない。
女性二人が使うには、いささか、いや、かなり量が多い。
特に干し肉などの食料。だが仕方ない。なにせ、仲間には育ち盛りや大食漢がいるのだから。


「では、お支払いは2458ゴールドになります」


金髪の女性が財布を開こうとした時、その指に光る物が道具屋の目に止まった。

「お客さん、それもしかして祈りの指輪じゃありませんか?」
「ええ」
「やはり!
その場でたちまち魔力を回復できるという、魔法使いにとっては幾つあっても足りない、という品だ。
お客さん、ただ者じゃありませんね?」

熱を帯びた口調の道具屋に対し、女性はふわりと笑うだけ。

「じゃあ代金はこちらに」

「ああ、いや、お客さん、代金はいらない。
それより、その指輪、売ってくれませんかね!?
なんならもう少し薬草と、あと、アモールの水もありますから、それと引き換えっていうのはどうです」
「いえ、これは……」
「後生です、お客さん。
サンマリーノは港町だしレイドックからの定期船もあるが、最近は魔物にやられと難破する船も少なくない。貴重な道具など、滅多に入らないんですよ。
だからお客さん」
「だめって言ったらだめなの!」

追いすがる道具屋に、それまで黙っていたオレンジ色の髪の少女がピシリと言い放った。


「これはね。ミレーユにとっては、他のどんなものにも変えられない、大切な指輪なの。
それがたまたま魔力を秘めてて、道具として使えるってだけ。あんまりしつこいと、別の店に行くわよ」
「そ、そんな〜……」


じゃっ、そーゆーわけで、指輪は諦めてね。にっこり笑う少女に、ミレーユと呼ばれた女性は困ったように笑うだけだった。
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