嗚呼、青春の灯火よ(リュ+サイ+つよ)


 昼休みで賑わっている教室を抜け出したリュータ、サイバー、つよしの3人は、屋上の扉の前の踊り場へ向かった。人気の少ないこの場所は、もっぱら3人で集まるときのたまり場になっている。

 本当は屋上へ入りたいところだが、あいにく屋上の扉には鍵がかかっていて、開かない。その鍵をDTOが隠し持っているとの噂だが、そのDTOも出張で学校にいない。

「ちぇっ。前は壊れてて開いたのになー」

 開かない扉のノブをガチャガチャと捻りながら、サイバーが言った。

「危ないからとかなんとかって、おれらもう高校生だぜ?んなもん、自分で気をつけるっての」

「だよなー。いいサボり場だったのに」

 サイバーの言葉に同調したつよしが唇を尖らせる。その姿を見て、リュータがけらけらと笑った。

「だからじゃね?さすがに授業サボるのに屋上使うってのは、ベタすぎだったのかもな」

「はー。部活やってる奴らはいーよな。部室使えるし」

「揃いも揃って帰宅部だもんな、おれら」

「まあ、しゃーないよ。リュータはバイトあるし、つよしはクラブでDJ、おれは兄貴の手伝いがあるしさ。部活やってる余裕なんてねーって、実際」

 気の抜けたため息をついて、リュータが後ろに倒れこむ。ただでさえ狭い踊り場に男子高校生が3人もいるのだ、より狭くなった空間につよしが顔をしかめる。

「おいっ。肘、当たってる」

「あ、ワリ。でもさあ、やってらんないよなあ。花の高校生なわけよ?おれら。セブンティーンよ?」

「なんだそりゃ」

 うえーっ、とサイバーが舌を出す。

「うっせ。あーあ。高校生活ってさ、もっとこう、わくわくするもんじゃね?恋にときめいたり」

「明日にきらめいたり?」

「つよし、それちょっと違うぞ」

「まーまー。で、リュータはなにが言いたいわけ?」

 ポケットから取り出したガムを口に放り投げて、サイバーが訊いた。すると、待ってました! とばかりにリュータが勢いよく上半身を起こした。

 そのとき、壁を背に座っていたつよしにリュータの腕が思い切り当たり、つよしはリュータを睨み付けた。だが、リュータは気にすることなく、口を開いた。

「つまりさ。おれはもっと青春したい!ってわけ」

 サイバーとつよしは、生乾きの眼差しをリュータに向ける。この間の温度差を分かっていないのは、リュータただひとりだ。

「青春、ねえ……」

「なんつーか。いまさらだよな」

「んだよ。……ていうか、サイバーはいいよな!リサがいるんだから」

「んなこと言ったら、つよしにだっているじゃん」

「はっ!?」

 驚いたリュータがつよしを見た。学校ではほとんどずっと一緒にいるが、そんな素振りは見たことがない。つよしに彼女がいるという噂も、ないはずだ。

「あいつは別に彼女じゃねーよ!」

 顔を真っ赤にしたつよしが否定する。

「え、違うの?この前、紫さんの店にお前が入るの見たからさ。なんでだろーって思って、紫さんに聞いてみたんだよ」

「サイバー、紫さんと仲良いのか?」リュータが訊くと、サイバーは首を横に振った。

「紫さん、うちの常連さんだから。そのときに聞いた」

「でも、紫さんには六さんがいるだろ?」

 同じDes-Row組のリュータは、六と紫の仲をよく知っている。紫が六以外の男と付き合うなんてまずありえないし、ましてやそれがつよしなんて、ありえない。絶対に、ない。

「違う違う。つよしの彼女は、紫さんのところに居候してる鹿ノ子ちゃんって子」

「だから、違えんだって!」

「でも、お前、最近よく紫さんの店に手伝いに行ってるんだろ?それってやっぱ、鹿ノ子ちゃんに逢いたいからなんじゃん?」

「別にそんなことはねえっ!」

 ポカン、と、そんな効果音が聞こえてきそうなくらい気の抜けた顔で、リュータは呆気にとられていた。

 サイバーは、まあいい。中学のときからリサと付き合っていたし、それがたとえ幼馴染みで人気アイドルだったとしても……まあ、いい。

 だけど、つよしは違う。つよしは見た目はそこそこ整っているけど、あの性格だからあまりモテない。つまり、リュータは自分とまったく同じところに、つよしがいると思っていたのだ。

 それが、どうだ?彼女ではないにしろ、サイバーの話とつよしの口振りを照らし合わせて考えると、どうもまんざらではないらしいではないか。

「……なんか、お前らを遠くに感じるよ」

 リュータが、サイバーとつよしを見て呟く。その視線は虚ろだ。

「ま、まあ。ほらっ、お前にもいるじゃんか。アイドルの知り合いがさ」

 さすがにリュータの姿を不憫に思ったのか、つよしがとっさにそう切り出した。

「あー。そうだよ。お前にはミミちゃんがいるじゃん。どう?最近連絡とってんの?」

 サイバーが訊く。それにリュータは答えず、ついにはがっくりと項垂れてしまった。「どうせおれは」なんてことを、ぶつぶつと呟いている。

「だめだこりゃ」

 味のなくなったガムを口から出して、サイバーが言った。この状況で、よくもまあ、そんなことが言えたものだ。無神経、よく言えばマイペースか。だけど、サイバーだと不思議と許してしまえるから、まったく特な性格をしている。

「それにしても腹減ったなー」

 すぐ隣で凹んでいるリュータのことなど気にせずに、サイバーがふう、と息をつく。さっき教室で弁当と売店のパンを食べたばかりなのに、とつよしは思ったが、確かに小腹が空いている。食べ盛りとは難儀なものだ。

「あ、そうだ。おれポッキー持ってたんだ。食べる?」

 さっきまで沈んでいたリュータが、けろりとした表情で言う。「はあ?」サイバーとリュータの声が重なる。

「いや。よく考えたら、お前らの言う通り、おれにはミミちゃんがいるし。青春はまだまだこれからだ。沈んでる暇なんかねえ!」

「……めんどくせえやつ」

「しかも鬱陶しい」

「言えてる。まあ、ポッキーは食うけど」

 食うのかよ、とつよしが苦笑する。「ほんっと、自由だよな」

「なんかさー。こうやって好き勝手してられんのも、いまのうちなんだよな。それって、結構青春してるってことかもな」

「リュータはミミさんと付き合えるようになったら、だな」

「うるせー!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ3人の声は、下の階まで筒抜けだが、そんなことを本人たちが知るよしもない。




END
2011.4.24
- 25 -
[*前へ] [#次へ]
戻る
リゼ