スターライト!(デイツラ)
特別な夜は、いつもわくわくしていた。ローテーブルの上に、つけっぱなしのキャンドルライトを置いていて、母さんに見つかったり。
「危ないでしょ」って、ふって火を消してしまえば、部屋はたちまち真っ暗になった。「怖いよ」ってぐずってみれば、母さんは「しょうがないわね」ってカーテンを開けてくれた。
お月さま。星。キラキラ光る街のあかり。
「おやすみ、デイヴ」
おでこにキス。怖くないように、眠れるようにって、いつもしてくれる。
でも今夜ばっかりは眠れそうにないや。だって、こんなにわくわくしてるんだもの。
ひとりっきりになった部屋で、目をぱちくり、ベッドの中で体を丸める。毛布に触れる足の指がなんだかこそばゆくて、もぞもぞともぐらみたいに動く。
ああ、早くこないかな。
……。
いつの間にか眠ってしまっていた。月明かりで光るベッドの上で、おれは跳ねるように飛び起きた。枕元に置いておいた毛糸の靴下には、まだなにも入っていない。
よかった。まだ来てないんだ。
今度こそちゃんと起きていようと、毛布から抜け出して、ベッドサイドに座る。窓の外から空を眺めて、そうして来るのを待とうと思った。
ぺたんこの毛糸の靴下は、今日のために母さんが縫ってくれたものだ。どんなプレゼントでもすっぽりと飲みこめるようにと、大ききめに作ってくれた。赤と青と白のライン。おれの好きな色だ。
またすぐに眠気はやってきたけど、今度こそ眠るもんか。ほっぺをつねる。痛い。でも、眠らないためにはしょうがない。
窓の外で大きな音がした。たくさんつもった雪に、なにかが落ちた音。それはおれの家の屋根から落ちたようだった。
窓を開けて下を見る。すると、そこには大きなくぼみができていて、そこになにかが落ちたみたいだ。赤い服を着た、それは……女?
「いったあーい!」
おれは壁にかけてあったコートを羽織って、外に出た。女の落ちたところへ向かう。
「もうっ! なんなのよ!」
おれが着いたとき、女は自力で這い上がっていた。お尻を強く打ったようで、しきりにさすっている。
「……あ!」
おれに気づいた女は、そう叫んで勢いよく立ち上がった。
「あんた、この家の子?」
「そ、うだけど……」
「あちゃー。やっちゃった」
自分の額に手を当てて、女がうなだれた。
「姿を見られちゃいけないって、あれほど言われたのに。特に子どもには」
「お前だって子どもじゃん」
子ども、という言葉にムッとして、おれはたまらず言った。確かにおれは子どもだけどさ。だけどなんか、むかつく。
「ツララはいいの。だって、サンタだもん」
サンタ?サンタっていうのは、あのサンタクロースのことか?おれが、眠らないで待っていた、あの?まさか。ていうか、こいつ自分のこと、名前で呼ぶのか。ふーん。
「うそだろ」
「うそじゃなーい! ほら、この服を見なさいよ!」
着ている服をつまんで、女、ツララが言った。
ツララが着ている服は、赤い。それに、袖や裾には白いふわふわした綿?みたいなのがついてる。んでもって、黒いベルトに赤いブーツ。極めつけは、手に握っているサンタ帽。
「……仮装?」
「ちがーう! てか、それを言うならコスプレでしょ!? それも違うけど!」
「こすぷれ?」
「だからそれはいいんだってば!」
なんだそれ。訳わかんねえ。というか、この女、めちゃくちゃうるさい。さっき、見つかっちゃいけないだのなんだのとわめいていたけど、自分で騒ぎまくってるじゃないか。なんだ、この女。
「あーもー。時間ないのに。あんたのせいよ!」
「なんだよそれ!なんでおれのせいになるんだよ!」
「とにかく、早いところプレゼントを配らないと! ……あんた、名前は?」
「……デイヴ」
「デイヴね。デイヴ、デイヴ……っと」
ツララは立ち上がって、ふらふらと歩いていく。その先にあったのは、サンタクロースが乗っているみたいな、ソリとトナカイだった。まさか。
ソリに乗せてあった白い袋をごそごそと漁り、リボンのついた小さな箱を取り出した。
「はい。あんたのだよ」
「これ、って……」
「決まってるじゃない。サンタクロースからの、クリスマスプレゼント!」
にっこりと笑って、おれに箱を差し出す。それをおれが受けとると、ツララはあっという間にソリに乗り込んでしまった。
「そんじゃ、メリークリスマス!子どもは早く眠りなさいよ!」
「え、おい! ちょっ……」
ぱっ、とまばゆい光が視界をおおった。眩しくて、おれは目をつむった。
次に目を開いたとき、ツララはもういなかった。
ママたちに気づかれないように、音を忍ばせて部屋に戻った。コートを脱いでベッドに潜りこみ、ツララにもらった箱のリボンをほどくと、中には手袋が入っていた。
メリークリスマス!
END
2011.4.6
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