心のゆくえ(エイ→ハジ)


 ハジメちゃんと付き合うことになった。


「お願い!エイト、オレと、その……付き合ってくんないか」

 昨日のことだ。

 おれはずっとハジメちゃんのことが好きだった。それこそ、学生の頃からずっと。

 だけど、その告白をすんなりと受け入れられるはずもない。だって、ハジメちゃんは、あのオレンジ頭が好きなんだから。

 たぶん、おれがハジメちゃんを好きになった、ずっと前から。

 それを知って、それでもおれはハジメちゃんを好きになった。

 たとえ叶わなくとも、いちばんの友人として、隣で想っていられればそれでよかった。そして、それはこれからもずっと変わらないのだと、思っていた。

「え……それ、って、どういうこと?」

 たしかに、ハジメちゃんと恋人になれたら、それはとても嬉しいことだ。叶わないと諦めつつも、心の底で望んでいた。だから、すごく嬉しい。

 でも、ハジメちゃんは、まだあのオレンジ頭が好きなはずなんだ。

「DTO先輩、いつまでたってもおれのこと、ただの後輩としか見てないじゃんか。いくらアピールしても軽くあしらわれちゃうし……」

 それで合点がいった。なるほど。そういうことか。

 つまり、こういうことだ。ハジメちゃんは、DTOが自分のことをどう思っているのか確かめたい。それで、おれと付き合っているという事実をつくって、それを知ったDTOの反応を見たい、ということなのだろう。

「おれを使って、DTOの反応を確かめたいんだ?」

「ごっ、ごめん。やっぱ、嫌だよな。そんなの」

 忘れてくれよ。とハジメちゃんが笑う。

「……いいよ」

「へ?」

「だから、いいよ。付き合ってるふり。やってもいいよ」

「ほ、ほんとか!?」

 ハジメちゃんの表情がぱっと明るくなる。そんなに嬉しいのかよ。 そんなに、DTOのことが、好きなのか。

 おれの気持ちも知らないで、こんなことに利用しようとするなんて、ハジメちゃんは残酷だ。そして、いいように使われるだけのおれは、惨めで愚かしい。

 分かっている。

「ありがとっ。エイト!」

 こうして、ハジメちゃんが無防備に抱きついてくれる。胸のうちをさらけ出して、醜い欲望も、なにもかもを話せるのは、きっとおれしかいない。

「いいよ。……うまくいくといいね」

 おれは決して、ハジメちゃんに気持ちを伝えない。友人の恋路を応援する、優しい友人を演じ続ける。

 そうやってハジメちゃんをだまし続ければ、いつか気づついたハジメちゃんが帰ってくる場所になれるから。

 それを、おれは望んでいるはずだ。


 翌日。さっそくハジメちゃんは、出勤してきたDTOの元に、意気揚々と近づいていく。おれは、その光景を、離れた自分のデスクに座って眺めている。いつものように。

 周りの職員からは、仲良くじゃれているようにしか見えないだろう。先輩を尊敬する、純粋な後輩。

 その心のうちにあるのは、醜い欲望の塊しかないんだ。そのことを知っているのは、おれだけ。おれだけが、知り得ることなのだ。

 でも、じゃあ、どうだろう。おれの心は、どす黒いこの心は、どこへ持っていったらいいのか。

 おれにも分からない。だけど、やがて辿り着く先にあるのは、後悔なのだと思う。




END
2011.4.3

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