ランチを食べよう(サイリサ)


 校舎裏にある人工芝の上では、弁当を広げる生徒たちで賑わっていた。まるでちょっとしたピクニックのようだ。中には、小さなビニールシートを持参している生徒までいる。

「サイバー!こっちこっち!」

 大声で手を振っているのは、リサだ。すでに二人分のスペースを確保している。なんて手際の良さだ。授業を終えたのは同じ時間だったはずなのに、とサイバーは苦笑する。

「しっかし混んでんなあ。リサ、お前いつもこんなトコで飯食ってんの?」

「うん。ビス子とかと。なんか遠足みたいで楽しいじゃん」

「へえー。わざわざこんな人多いトコで、女はご苦労なこった」

「サイバーはリュータたちと屋上でしょ?あたしが誘ったって、全然来てくんないんだもん」

 ひどいよね、とリサが笑う。「あたしたち、付き合ってるのに。一応」

「今さらだろ。それに、こうして来たんだからいいじゃんか」

「あたしが、お弁当作ったからどうしても来て!ってお願いしたからでしょ。それも、しぶしぶって感じだしー」

「ま、それはいいとして、早く飯食おうぜ。おれ、もう腹が減って死にそう」

「もーっ」

 サイバーとリサが付き合い始めたのは、中学生のときからなのだ。その期間はかなり長く、もともと友だちからの延長線のような関係だったので、あまりべたべたとくっつくこともない。口喧嘩なんかはしょっちゅうではあるものの、それすらもコミュニケーションのひとつになっている。

「サンドイッチ?」

「うん。サイバー、好きでしょ?」

 リサが、膝の上に乗せていたランチボックスの包みをほどき、ふたを取る。ファミリー用のランチボックスには、4つのサンドイッチがつめられていた。

「こっちがハムとたまごで、こっちがトマトとレタスとキュウリのベジタブルサンド。で、はちみつバターと木いちごジャムね」

「美味そうだなー」

「好きなの取っていいよ」

 サイバーが迷わず手を伸ばしたのは、ベジタブルサンドだ。食べ盛りの男子学生にしては珍しく、サイバーは野菜が好きなのだ。

 サイバーが大口でサンドイッチをかじる。「おー、美味い」

「相変わらず美味いなー。リサん家の自家製ドレッシング」

「でしょ?あたしと結婚したら、毎日食べれるよ」

「作ったのはおばさんだろ?」

「あたしだって、ママに教わって、お料理始めたんだから!このサンドイッチだって、あたしが作ったんだからね」

「へえ。不器用なリサがねえ」

 ひとつ目のサンドイッチをぺろりと平らげたサイバーが、2つ目に手を伸ばす。木いちごジャムのサンドイッチだ。

「そういや、次ってなんだっけ?」

「数学」

「そーだった。あー、めんどくせえなあ。サボろっかな」

「なら、あたしもサボる」

「出席日数大丈夫か?最近、仕事で休むの多いじゃん」

「んー、まあ、なんとかなるでしょ。後でビス子にノート写させてもらおっと」

 もぐもぐ。昼休みをたっぷり残して、2人はサンドイッチをすべて食べ終えた。空になったランチボックスを包み直し、傍らに置く。

「そういや、飲みもん買ってなかったな。リサ、なに飲む?」

「いつものやつ。サイバーのおごりね」

「ひっでえ。おれ、今月財布ピンチなのに」

「あたしがおごってあげる方が多いでしょ。じゃあ、あたしはお弁当置いてくるから、先屋上行っててよ」

「へいへい」

 2人は立ち上がり、膝についた人工芝を軽く払った。

「あ、そうだ」

 サイバーが歩き出そうとした足を止めて、くるりと振り返った。両手をあわせて、一言だけ「ごちそーさん」。

「おそまつさま」リサが言った。「しょうがないから、また作ってきてあげる」

「なんだそりゃ」

 サイバーが笑う。でも、まあ、こんな日もいいかもしれない。なんて思ったことは、リサには言わないけれど。




END
2011.4.17
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リゼ