流れ星が消える(睦スミ)


 喧嘩をした、その原因を覚えていないということは、よくあることだ。

 だけど今回はそうじゃない。僕はうっかり口をすべらせてしまって、スミレちゃんを怒らせてしまったのだ。本当に些細なことで、でも、スミレちゃんにとってはそうじゃなかったみたい。

 あれから、スミレちゃんは連絡をくれない。いつも会ってる、公園にも来てくれない。

 なら、僕の方から謝ればいいのかもしれないけれど、なんだか納得がいかない。僕、間違ったこと言ったかな?あれから何度も考えたけれど、どうにも答えがでなかった。

 スミレちゃんと喧嘩したまま、会えないまま、毎日が過ぎていく。もっと落ち込むかと思ったけれど、前と変わらずに過ごしている。スミレちゃんといたときは、スミレちゃんがいなくなったらきっと僕は死んでしまうのだと思っていたけれど、案外そうでもないらしい。


 大学の講義をサボって、いつもの公園へ向かう。スミレちゃんが来てないかなって、ほんのちょっぴり、期待をして。いまの時間だと、まだ高校にいるんだろうけど。

 芝の上に寝転がって、青空を仰ぐ。僕の気持ちは、こんなにきれいなスカイブルーじゃないんだけどなあ。もっとこう、雲がいっぱい浮かんでるイメージ。あいにく、空は雲ひとつない快晴だ。

 スケッチブックを開くと、前に描いたスミレちゃんのスケッチがいっぱいあった。笑ってるスミレちゃん、すましてるスミレちゃん、眠ってるスミレちゃん。思えば、僕ってスミレちゃんばっかり描いてるなあ。いつからだろう?

 表情がよく変わるスミレちゃんを、スケッチブックに収めるのは難しい。笑ったり、怒ったり、泣いたり、かと思えばまた笑っていたり。スミレちゃんは忙しい。

 いまのスミレちゃんは、どんな表情をしてるのかな?

 ……分からない。こんなに会わないことは、いままであんまりなかったから。


 目を開けると、スカイブルーだった空は暗くなっていた。変わりに、月と、星がいっぱい見える。すっかり夜になってしまったみたいだ。

 しまったなあ。今日は、未完成のスケッチを仕上げてしまいたかったのに。
傍らに放り投げてあったスケッチブックを手に取る。ぺらぺらとページをめくり、今日描くはずだったページを開く。

 あ、そっか。スミレちゃんはいないから、だから、どっちにしたって描けなかったんだ。

 ……しまったなあ。

 少し肌寒いけれど、すぐに帰る気にもなれず、僕はぼーと夜空を眺めていた。雲のように星は動かずに、ずっと同じ場所にある。だから、同じ星や星座を見失わない。まるで、額縁にはめられた絵みたいだ。

 星のひとつが、動いた。流れ星だ、と思ったときには、すでに消えてしまっていた。

 願いごと、できなかったなあ。あっというまに消えてしまうんだもの。
今度同じチャンスが来たら、ちゃんと願いごとを3回、唱えられるようにしよう。いまの僕だったら、そうだな、やっぱりスミレちゃんと仲直り、かな?

 次の流れ星を待つまでもなく、僕はスミレちゃんと仲直りをした。というか、いつの間にか、前のように笑って過ごせていた。

 いままで数えきれないくらい喧嘩をして、そのたびに仲直りをしてきた。これからもきっと、いっぱい喧嘩をするだろう。

 でも、いいんだ。そのたびに仲直りが、きっとできるから。


 しばらくして、ようやく僕は未完成だった絵を描きあげることができた。




END
2011.4.5

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