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君をさらって遠ざかる電車を人知れず見送った。

急にフラれた悲しい物語。
唇にまだ伝わっていたのは涙混じりの可愛いキス。
次の時の約束をして帰るロマンチストじゃ生きてはいけないんだろう。

一人残された孤独感がいつも寂しい。




そんな日々はとうに昔。
今では冬。
冷たい風が吹くたび、君は凍えてないか
風邪を引いてないか考えてた。

もう、別れたのに。

長いコートを着て歩く街はもうクリスマス。
恋人達は幸せそうに手を繋いで歩いてる。
隣に君がいたら、だなんて思う俺は切ない。

「おいお前」

後ろからの声に振り向いた。

「やっぱりあの時のガキか…一人でなにやってんだよ?」

あの時の…初めて白石に逢った日に俺に絡んで来た人たち。

「なんの用だい…?」
「あの時の仮を返そうと思ってな…」
「…ちょっと、」

強引に二人掛かりで抑え付けられ、路地裏に引きずり込まれる。

「やめ…っ」

ビリビリと服を脱がされて地面に叩き付けられた。
ドサッと鈍い音。

「へぇ、お前男だったんだ…まぁいい…穴はあるからな、入れてやるよ」「なん、で…っ」

泣いて叫んだ。
こんな下らない奴らに、と。

誰かに助けて欲しいのに、誰も来てはくれない。

―――だけど、自分の初めてを捧げるならせめて…大好きな人に…。




だから俺はこんな所で負ける訳にはいかない。










近くで俺を抑えてた手をかじって近寄る男を蹴飛ばして走って逃げた。

破かれた服が情けない。








家に逃げ込んで急いで服を着替えた。
誰にも弱い自分を見せたくなかった。


こんな時に君がいたら、きっと抱きしめてくれるでしょう。
だけどもう、叶わない…。










君を思う日々はただ、早く過ぎてく。













春が来て、高校に進学して新しく友達も出来た。

急に大人になった訳でもなかったけど、なんだか大人になった気になっていた。

土曜日、近くのデパートに買い物に行って、君に逢うなんて思っても見なかった。









「…白、石」
「………」

なんて偶然。

「幸村くん…」

久しぶりだったのに久しぶりに感じなかった。それなのにどうして涙が出るんだろう
出逢えた喜び?君の顔の暖かさ?
そんなの知らない…

「え…ちょ、幸村くん…!?」
「……っ、なんで…っ」

慌ててこの場を離れようとした。
だけど君は追ってくるから…。

「やだ…、来ないで…っ」
「待ちぃや幸村くん!!」
「……っ」

…抱きしめられた。
強く抱きしめられると抱きしめられただけ、目から涙が零れる。

「すまん…幸村くん」
「…なんで、」
「幸村くん、もう泣かないで…俺が、俺がずっとそばにおるから……。」

君の声が俺を安心させた。
やっぱり、大好きだ…

「嘘…つかないで…。またどうせ次の日にはいなくなるくせに…。」
「もう…いなくならないよ幸村くん」
「やめて…そんな嘘聞きたくない…っ」
「嘘やない」

もっと正直に気持ちを伝えられたら、きっと幸せになれるのに…

…。

「もう君の前からいなくならない事を誓ったんや…。幸村くん、俺の家に来てくれへんか?」
「…………」

そして付いてく俺も俺。
君の部屋は君の匂いが充満してて苦しい。

お願い、この幸せな時を続かせて…。
だってずっと待ってたんだもん。君の顔を見れる時を。












「ぁあっ、白…石…っ!!」
「幸村く、ん…っ」

裸になって抱き合った。
首に腕をまわしたら涙が自然に溢れ出た。

君の物が深く入って来る度君を知れる様な気がして、嬉しかった。

何度も何度も終わりと始まりを繰り返し、二人は疲れて眠りに就いた。

今度はいつ、離れてしまうの?
これも最後に俺に与えたキスと一緒なの?

ねぇ、目を見て。俺の話を聞いて。
そんな俺のわがままを。

ずっとそばにいたいなんて言わないから。
















朝になって、まだ寝てる君を見つめた。

「白石…」

名前を呼んだ。
君は返事をしなかった。寝ていた。










二人の愛が永遠になる魔法があるなら、その力を俺に下さい。
きっとそれは出来ないね。

俺たちの前に立つ壁はあまりにも高すぎた。

でも、その時が来るまで俺からは離れない。
だから、だから今この瞬間を君は好きなだけ抱きしめていて…。




(2010/10/14)

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