last chance

この文章は夏が去るの続編です。
最初に読んで頂けると流れが掴めやすいと思います
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君の言葉を心の中で繰り返す

“どうして最後までキスをするの?”

それはきっと俺が不器用だったから。
ごめん、悲しい思いを沢山させて…



君と出会えた、夏が去る。






















夏が去った後すぐに秋はやって来た。
季節が過ぎるのは早くて秋が過ぎたら冬が来た。
今年の冬は異常な寒さだから、いつも想う。

君は凍えてないだろうか、誰かに抱かれているのだろうか…。

俺のそんな想いも空振りで、冬が過ぎて春が来た。
俺は特にやりたい事なんかなくて高校生になった。

学校の後はバイトをしながら一人暮らしを神奈川で始めた。
君に、出会えるかな…。

「…はぁ」相変わらず出るのは溜め息。
携帯を見つめながら思う事、それは

「なんで消してしまったんやろ、幸村くんのアドレスと番号…。」

一人暮らしをしてから独り言がやけに多くなった。

今度、君に逢えたらそれがラストチャンス。
君に逢って言いたい。
今でも好きだと、愛している と。

返って来る答えがYesだったらずっと近くにいられる。
Noだとしたら全てが無駄。
一か八かの大勝負。

俺は次の出逢いを期待などしない。
一途なのは昔から。
だから、早く…

6:00、携帯電話のアラームが鳴った。
鳴る5分前には起きている。

7:30に家を出る。
自転車を漕いで約25分、学校へ辿り着く。
今は新しい景色、一年経ったら見慣れた景色。

授業が終わればバイトに行った。
月の始めには家賃を払い、なるべく無駄を省いて暮らしている。








いつかの休みの日、一人チャリンコを漕いで少し遠いデパートへ出掛けた。

「…白、石」
「………」

なんて偶然。
まるで神様が操っているかの様だ。
本当に、世界って狭い…。

「幸村くん…」

久しぶりの君の瞳を見つめてた。
その大きな瞳には涙

「え…ちょ、幸村くん…!?」
「……っ、なんで…っ」

急にポロポロと涙を流す君は弱い。
焦ってこの場を離れようとする幸村くんの腕を引っ張った。

“今度、君に逢えたらそれがラストチャンス。”

歯を食いしばる。

「やだ…、来ないで…っ」

これを逃したら、

「待ちぃや幸村くん!!」

全てが無駄…。

「……っ」

ギュウと抱きしめた。
強く抱きしめると抱きしめただけ、目から涙が零れてた。

「すまん…幸村くん」
「…なんで、」

幸村くんの声が震えてる。
愛おしい。

「幸村くん、もう泣かないで…俺が、俺がずっとそばにおるから……。」

かなり強気で言ったのは、君を安心させたいが為。
君の手がそろそろと俺の背中を抱きしめる。

「嘘…つかないで…。またどうせ次の日にはいなくなるくせに…。」
「もう…いなくならないよ幸村くん」
「やめて…そんな嘘聞きたくない…っ」
「嘘やない」

嘘や、ない…。
俺は――――

「もう君の前からいなくならない事を誓ったんや…。」

周りの目を気にせず抱き合って5分、やっと幸村くんの肩の震えと涙は止まった。
それを確認して俺は体を離した。

「俺の家に来てくれへんか?」
「…………」

黙り込む君を半ば強引に連れて帰った。

「…どういうつもり?」
「……すまん、ホンマに」
「なにが」
「…もう離したくないんや幸村くん」

蒼い瞳は空の様。
だけど風は吹かない俺の部屋
雲さえここには入り込めなくて

「だから…ずっと俺のそばにおってくれ…。」
「………うん」

綺麗な瞳が静かに閉じる。

それから二人、時間を忘れる様に黙って見つめ合った。
話したい事は沢山、だけど今はこの空間が心地いい。

今までの事、これからの事
それは焦らなくてもいい
ずっと二人は一緒にいるんだから…
そう、最初から最後までなんにもない物語なら5分足らずで終わるから。

永く、太く、痛いくらい絡んで進む。

なにがあっても俺は離さない。







空が暗くなる。


「…今度はいつ逢える?」

帰り際に君が言う。
そんなの、君が望めばいつだって…

「幸村くん…今日泊まって行かへん?」
「………」

それは精一杯のアピール
ずっとこのまま…

「…わかった」

全てを悟ったように柔らかい唇を押し当てて優しいキスをする。
以前の二人はまだ子供。
きっと今なら…階段すらも一段抜かしで登って行ける。

「ゆ、幸村くん!?」

黙って顔を俺の胸に埋めてしばらく、腕を背中にまわして抱き寄せられる。

「ねぇ…ちゃんと愛してた?離れてから…。」
「…幸村くん」

“どうして最後までキスをするの?”
“ちゃんと愛してた?”

答えは今、この手の中。

「やっと今、曖昧な答えじゃなくてちゃんとした答えが見つかった。」
「…え?」
「前、別れた時に幸村くんが言ってた言葉の答え。“どうして最後までキスをするの?”って…言っとったやろ?」
「……うん」
「その答えは…誰にも触れさせたくなかったから…。」



























それから何度も絶頂を味わい二人は果てた。
今まで離れた分、深く抱き合った。


いつか本当のラストが来たらちゃんと友達に戻ろう。
今日の風が止まらぬように。
現在(今)が過去にならないように。

だから二度と来ないで、俺の本当のラストチャンス。







(2010/10/14)

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