夏が去る

初めて見た時、どうしようもなくドキドキした。
柔らかそうな髪の毛、唇、優しい事、瞳。
全部、なぜだか手に入れてしまいたいと
抱きしめたいと思った――。





それは去年の夏休み、一人で神奈川に旅行へ行った時の事。
買い物をする一人の人を見つけた。
それが君だった。

レジで財布を開けた時、小銭がほとんど飛び散って焦っていた俺に優しく声をかけてくれた。


「大丈夫?」
「あ、ああ…おおきに…。」
「フフ…それじゃあ」
「………っ」

会計を済ませて追いかけて見たけれどやっぱり君はもういなくて
だから一人、知らない街を歩いてた。
初めて逢った、もう逢えないだろう君を思いながら。







「…やめてよ!!」
「?」

突然前から聞こえてくる言葉に前を向く。

「あ…」

前にいたのはさっきの綺麗な子。
変な男に囲まれていた。

「ちょっ…なにしてんねん!!やめぇや!!」
「!?」
「あ?誰だお前」
「俺は白石や!!」

















「……白石、くんって言ったよね?ありがとう」
「あ…ああ…」

結局、殴られて後は逆に君に助けられたけど…。

「俺は幸村。よろしく。」

ふわっと笑った。
風が吹いて君のシャンプーの匂いが鼻を包んだ。

「俺、て……きみ男なん…?」
「え…そうだけど…」
「…嘘やん。」
「フフ…」

やっぱり君の笑顔はそれでも素敵で綺麗だと思った。

明日俺は大阪に帰る。

「ねぇ幸村くん…。良かったら、メアド教えてくれへん?」
「……え」
「嫌やったらええねん…!!」
「…フフ、嫌じゃ…ないよ」
「………っ」

あからさまに自分の頬が赤くなるのがわかった。
恥ずかしい。
ねぇ、ねぇ今だけでいいから…君との永遠を感じてたいんだ。

「…どないしよう幸村くん…初めて逢ったあの時、俺は君の事…」




――好きに、なってしまったかも知れへん…――

「…ありがとう」
「……」

だから
今日限りの、キスをさせて…。

「……っ!?」
「―――」

瞳を閉じながらキスを奪った。
君が嫌な顔をしていたら嫌だったから。






「…俺のファーストキス」
「………すまん」
「…………。」
「……。」


今、唇を奪ったばかりの君の唇を見つめた。
なんだか恥ずかしくて嬉しい。

「…責任、取ってよね。」
「ああ……。…え?」
「当たり前でしょ!?勝手にキスなんかしておいて…!!」



聞けばその時幸村くんは、好きな人と別れたばかりだって そう言ってた。

「責任…取ったるわ…。」

誓って、次の朝…俺は大阪に帰った。
相も変わらず未だにメールはするし、君が入院したのも知ってるし…ずっと繋がっている。
だから俺は負けても立ち向かって、関東へ君に会いに行く。
君ももちろん、勝ち残っていてくれている筈だから…

「明日やな…」

今日は早く寝よう。
そしたら明日が早くやって来る。















「幸村くん…」

初めて逢った時と同じ場所で、また同じ様に君を見かけた。

ただ違うのは、

「久しぶり」

二人は互いを知っている。
目を細めて笑う、君の笑顔が大好きで俺は抱きしめた。
強く。
今まで想っていた分だけ強く。

「白、石…?」
「すまん…しばらくは、このまま…。」
「……うん」

柔らかい。
優しい匂い。
変わらないな…。

だけど、コートの中では二人は敵になる。
だから…その前に君は、どこかで負けて俺に身を任せていて…。







大会が終わって、現実を見た。
結局俺の所も君の所も、優勝は出来なかったけれど帰る前君と少しだけ話した。

「君に恥ずかしい所見られちゃったね」
「…いや、俺は」

頑張ってる君が綺麗だ、と素直に思ったのに言葉に出来ない悔しさ。

「また帰っちゃうんだね…」
「ああ…。」
「……ごめん」





“ねぇ幸村くん、別れよう…”





「………」
「……」

二人は黙ったまましばらく座っていた。
もう、君が俺の知らない所で違う誰かと…なんて考えて、悲しい思いをするのは悲しいから…。

「だから、別れよう…。」
「…そうだね」

だから最後にキスをした。

それから振り返らないでその場を去った。
君も逢えない俺といるより新しい恋をしてくれたら…。
だから、さよなら…愛しい恋人。














帰りの新幹線の中、君の言葉を心の中で繰り返す

“どうして最後までキスをするの?”

それはきっと俺が不器用だったから。
ごめん、悲しい思いを沢山させて…



離れてく。
一秒針が進むだけで、沢山の距離が離れてく。

君と出会えた、夏が去る。



(2010/09/21)

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