積み木

ねぇ、覚えてる?君たちと俺の出会い
いつも仲良く話しちょるお前らがなんば好きになって、思わず声を掛けたくらいばい…
もちろん、テニスをやるのが一番の目的やったけど
だけど...

「………っ」

部活に着いて思わず息を潜めた。
こげに重い空気、こんな空間初めて…。

「な、なんね?なんばしよったと?白石…」
「……なにがってなんや?」
「…謙也は?」
「……謙也は、あんまり来うへん」
「………。」
「たまに来たと思うたら誰とも話さんで帰りよる…。」

なんで、どうして…なにがあったの?
俺の好きやった空間はこんなんやなか…
もっと、もっと皆キラキラしてて 楽しくて…
馬鹿言って笑っていたはずなのに…

「もう…、もう理屈や頭なんかいらないんや…!!」
「…………っ」

俺の目の前で自分の教科書やノートを破く白石が切なかった。
こんな纏まらない部員たちを見てると疲れると以前言っていた。

「すまんなぁ千歳、色々吹っ切れてもうて…」
「ああ…。」

白石が破いてる姿を見て思った。

“まるで、今までの俺たちの関係を切り刻んでいるみたい”だ、と。

「千歳ぇ…」
「…金ちゃん」
「なんやワイ、最近の皆怖いで…すぐ怒るし…」
「うん…」

いつもと同じく話しかけてくれるのは金ちゃんだけ
後はなんだか空気が重い。
なんで…いつ壊れたのだろう…






「おー、千歳来てたんか!」

遅れて謙也が来ても皆はそちらを向かない。

「最近空気重いんやここ」
「そうみたいやね…」

なんだかそれって、勿体ない気がした。

だけど一度崩れてしまった積み木は頑張っても元に戻るまで時間はかかるし、同じく治る訳でもなくて

崩れて初めてわかる物だから、完全な形は思い出せなくて…

そこで微妙なズレが生じる物。





「あ、千歳どこ行くん?」
「…帰るわ、行くぞ金ちゃん」
「え?ちょ、千歳!」

とりあえず、幼い自分の弟みたく無邪気で可愛い子をこんな所に置いて置きとうなかった。

家に着いて一息着いた。

「すまんね金ちゃん」
「ええんや…ワイ、千歳大好きやから!」
「………」

ストレートな気持ちにびっくりして、一瞬止まって笑って言った

「金ちゃんは可愛かねぇ…」
頭を撫でたら髪が柔らかかった。
彼もまんざらではない様子でしばらくこうしてた。


ふと思う。
本当はそれでいいんじゃないかって。

確かに皆で笑っていた日々は楽しくて、大好きだった。

だけどわかり合える人が一人だけでもいてくれる
きっとそれでいい。


「ありがとう、金ちゃん…」

そばにいてくれて、ここに生まれてくれた事に心から感謝した。

戻らないなら戻らなくてもいい。
ただ俺は先に行く。
大切な人を連れて…。


ねぇ、覚えてる?君たちと俺の出会い
いつも仲良く話しちょるお前らがなんば好きになって、思わず声を掛けた…

俺はそれを、いまでも鮮明に覚えてる



(2010/09/10)

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