彼岸花
悲しげに揺れる花
赤いそれはまるで…―――
「ネェ、真田…返事ヲ シテ…」
聞こえない。なにも聞こえない。
聞きたくもない。
悲しい思い出たちの出口はどこ?
10の扉がある。
いい?この中から3つだけ開けるんだよ。
ただ、2つ失敗して3つ目も失敗したなら…
「二度ト、元ニハ戻レナイカラ。」
だけど見事、菜の花が揺れる扉を開く事が出来たらずっと、ずぅっと一緒にいてあげる。
じゃあいくよ。
いいね、彼岸花が出てきたらなるべく早く扉を閉めて。
それはハズレの扉だから。
そうじゃないと…君も赤く、染まっていくから…。
「…幸村?幸村いないのか?」
目を開けたら、真っ白だった。
周りには何もない。
「……」
そういえばさっき夢の中でずっと幸村の声が聞こえて何かを喋ってた。
何もないのをわかってながら、辺りを見渡してみたら 扉があった。
10個の扉。
“10の扉がある。いい?この中から3つだけ開けるんだよ。”
「……」
等間隔で置かれた扉のうち、真っ正面にある扉を開いて見た。
――キィ
その扉の向こうは青かった。
そこに咲いていた小さな花達。
“forget me not”
自然に浮かんだ言葉
この花の花言葉。
忘れないで、真実の愛。
以前彼が言ってたのを知ってる。
勿忘草の英名、フォーゲット・ミー・ノット
その綺麗な青と、匂いに目を閉じた。
ああ、世界が回転する。
「誰がお前を忘れるものか…」
頭がぐるぐる廻る。
その扉を閉じた。
あと開けていい扉は2つ。
勿忘草の扉の反対側の扉に近付いた。
そして思い切り、開ける。
光ってた。
目が眩むほど。
だけどよく見てみると、黄色いベルのような花が咲いていた。
“…この花の名前はね、サンダーソニア。別名はクリスマス・ベル。”
いつかのクリスマスの時のお前の声が聞こえる。
「綺麗だ…」
見とれた。神秘的なその姿に。
「…そうだね。」
「幸村…」
突然現れた幻。
俺に後ろを向いてしゃがんでいる。
「必死に何かを唱える。これは俺の思い。君と一緒にいたい。」
幸村は虚ろに喋っていた。
「俺が神に掲げるもの、もう誰も君を傷つけないでと…ねぇ…。」
もう少しで愛しいお前の顔が見えるのに、
「…サンダーソニアの花言葉…祈り。」
呟いた途端幻は消えた。
“さぁ次の扉を開けて、本当の俺に逢いに来てよ”
俺は頷く。
やってやる。
そしてお前を見つけ出す。
最後の扉。
夢の中でお前は…
目を瞑って足の行くまま進んで出を伸ばした。
そしたらドアノブに手がぶつかった。
「……。」
幸村、開けるぞ。
この扉を開いてお前の所へ逢いに行く。
その扉は重かった。なかなか開かない。
少し開いた所で目を開けて、全て開けた。
「なん…だ、ここは…。」
真っ赤な世界
赤くて悲しい世界。
彼岸花の咲く扉。
『いいね、彼岸花が出てきたらなるべく早く……――――』
思い出せない。
彼岸花が出たら何をしたらいいのかが。
思い出せない記憶の声。
むせ返る程の風。
息が苦しい。
「 幸 、 村 … … … 」
おしまいだね。君は赤くなった。
まるで二人のよく知ってる、赤い悪魔の様だよ。
ふふ、君とはもうずっと一緒にはいられない。
彼岸花の花言葉はねぇ…悲しい思い出。
俺の秘めたる悲しい言葉を繋げて。
真実の悲しい愛の祈り、思い出を忘れないで。
アカシアの黄色の花は揺れなかったね。
秘密の愛の祈り、忘れないで、真実。
本当は君に伝えたかったのに。君は見つけてくれなかったね。
じゃあ、さよなら…先に行ってて。
赤く染まった君。
俺のお見舞いに来ようとして車に引かれて死んでしまった15歳の少年。
アカシアの花咲く春の前の秋の日、君はいなくなった。俺を残して。
いいね、彼岸花が出てきたらなるべく早く扉を閉めて…。
そうじゃないと…君も赤く、染まっていくから…。
(2010/09/01)
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