聖蝶舞踏伝 蜀編第10,5話
凌統『嫉妬』

妲己が操っていた大量の幻影が雨によって消滅してから、丸一日が経過した。
その清らかな雨水はそれと同時に、倒れていた大勢の蜀の兵の怪我をも完治させ、中には命を吹き返す者さえ、いたと聞く。

その雨はもちろんただの雨等ではなく。

…凌統の目の前で寝息をたてている、彼女が『竜の涙』と呼ばれる勾玉を用いて、降らせたものであった。
その行為はやはり相当の体力を使うものだったらしく、今なお瞼を開く様子はない。

凌統はそっと、寝台に眠る彼女の頬に手をやる。

(…やっと会えたと思ったんだがな…。)

思わず溜息が漏れる。
足手まといにならないように、毎日鍛練を怠らず、腕を磨き、そして自分の想いにケリをつけ、ようやく会ってこの想いを伝えようとすれば、これだ。

当の本人は目を覚まさず、しかも彼女の過去の話を陸遜らからそれとなく聞いてしまった。
それに…あの趙雲という男。
話に聞いた以上に、こいつとかなり親しいように見えた。
…字で呼ばれていたし。

(…なんか面白くないな…)

凌統には自分が抱いたこの気持ちの正体が充分にわかっていた。
だが、どうしてもそれを認めたくなかった。
認めてしまうと、自分が負けている、そんな気がするからである。
…趙雲にも、彼女の心に今なお生き続けているであろう相手にも、―そして自分自身にも。


「…ったく、早く起きろっつーの!
話したいこと、沢山あるんだからさ」


不機嫌そうにボソッとそれだけ言うと、凌統は彼女の額にそっと口付けをした。

―彼女が目を覚ますことを祈りながら。



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凌統、甘寧、陸遜、趙雲です♪

AIイラスト投稿はうたたねパレッツ
リゼ