聖蝶舞踏伝 蜀編第10.5話
趙雲『新たな恋敵』

妲己という妖魔の襲撃は城に大打撃を与えた。
兵の怪我こそ不思議な雨により何故か全員完治した。
しかし建物の損傷や、そして何より兵らの精神面は酷いものである。
趙雲は蜀の武将として、それらの後処理に追われていた。

それもようやく一段落し、「休憩しろ」という馬超の言葉を聞かず、彼は急ぎ足である部屋に向かった。

目的の部屋の前に到着し、立ち止まる。
趙雲が立ち止まったのは、呉からの使者の一人で、そして彼の友人の部屋であった。
趙雲の友人である彼女は、先の襲撃の後、眠るようにその場に倒れた。
あれから丸一日経とうとするが、未だに目が覚めたという報告は聞いていない。

(…彼女は大丈夫だろうか…?)

心配な面持ちで、彼が部屋の扉に手をかけたその時、部屋の中から声が聞こえた。
その声は聞き覚えがあった。
昨日、危機に陥った自分を助けてくれた人物、呉の武将・凌統の声であった。

扉は開かれる事は無かった。
趙雲はそのまま来た道を戻る。


『…ったく、早く起きろっつーの!
話したいこと、沢山あるんだからさ』


聞こえてしまった、凌統の言葉が脳裏で再び流れた。
正直、聞きたくなかった。

いや、聞く前からわかっていた。
彼女自身は気づいてはいないのかもしれないが、…あいつの前でしか見せなかった笑顔を彼女は…凌統殿に見せていた。

彼女は新しい居場所を見つけたのだろう。
それは友人として祝福すべきことだと思う。

だけど…


「…簡単に譲ることは出来ないな。
今回はお前の時のように簡単には引き下がるつもりは無いよ」


趙雲はその場に居るはずもない、親友に語りかけた。

―彼女が決断を下すその時まで、諦めない。



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凌統、陸遜、甘寧、趙雲の四種類!

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