恋は予期せぬ事也。
   学級委員とは何とも面倒なものだろう?まだ日直や教科担当の方がマシだ。まさかクジでこの俺が学級委員なんてなぁ…しかも、相手は−−
あのイケメンの浅井長政と噂されているお市こと"織田市"
苦手なんだよなぁ。
正直…




数ヶ月経った今もその苦手意識は変わらない。今日は今日で文化祭の準備とかで遅くまで手伝わされてるし、早くまつ姉ちゃんのご飯が食べたいのに。

「何をブツブツ云っているの?」

いつの間にか独り言を呟いていたらしく、市が顔を覗き込んできた。二人は廊下を歩いている。慶次は重そうな雑具、市は軽目の書類を持って。

「え?」

覗き込んできた市な顔に一瞬ドキっとする。あの泣く子も黙る議員、織田信長の実妹とは思えない美しい女性だ。寧ろ、その妻である濃の方が血の繋がりがあると云われた方がピンとくる。

「いや、何でも…って何か云ってた?俺」
「面倒臭いとかお姉さんのご飯が食べたいとか」
「げ。声に出してた?」
「ええ」
「まつ姉ちゃんの飯は超美味しいから自慢したいから聞かれてめ良いんだけど…べ、別にこれが面倒臭いって云うんじゃなくて…」
「構わない。だって誰もやりたがらないんだもの。私だって面倒」
「そうなの?」
「今日も長政先輩と−」
「あ、やっぱり浅井先輩と恋人同士なんだ?」「そうよ」
「正に美男美女の−「嘘」
「え?」
「着いたわよ」

−−ガラガラ−−

「汚いわね…」
「だね。取り敢えず置こう…重い…」
「ええ」

雑具置き場に到着し、荷物を各場所に置く。様々な物が散乱しており、此処に置いておくのは正直良い気はしない。一時保管場所なので仕方ないが。自分達のクラスのだと把握出来る様に近くにあった藁半紙に学年とクラス、委員名を記入しておいた。

「なぁ、さっきの嘘なの?」
「嘘に決まってるじゃない」
「本当に嘘?」
「そう嘘」
「…」

不思議そうに市を見る慶次。

「…何その目。私だって嘘を云うのよ?」
「意外だなって。織田さんは優等生だから嘘云うようなイメージなくてさ。皆云ってるよ?曲がってなくて頭も良いし、絶対浅井先輩と付き合ってるって」

訝しげに慶次を見返す。私は皆が思うような優等生じゃない。嘘だってつくし、悪口だって云うの。

「皆が思う様な女じゃないわ。誤解しないで」

市の顔が曇る。

「市はね、今まで自分を殺して生きてきたの。兄様があの性格だから私は皆に好かれるようにって両親や乳母や周りの大人達に育てられた。常に周りの顔色を伺いながら状況毎に合わせられる子になって欲しいと。愛情を沢山貰えるようにと。だけど、それがとても苦しくて…」
「俺は常に自由に生きてるぜ?まつ姉ちゃん達にはしっかりしろって云われてるけどあんまり気にしてないし」
「お気楽で良いわね」
「たまには息を抜かないとその重圧で窒息死しちまうぜ?」
「本当ね」
「しかし、誰があの噂流したんだろうな?」
「悪い噂程流れやすい」
「悪くはないだろ?あの先輩と噂されてるんだから」
「長政先輩はそう思ってないわ。きっと」
「分からないよ?もしかしたらさ織田に気があるのかもしれないし」
「あの人にはもっと良い女性がお似合いよ」
「俺は浅井先輩とならお似合いカップルだと思うけどなぁ」
「この話は終わり。先生に報告して帰りましょ」
「そうだな。浅井先輩が織田さんの事どう思ってるのか気にならない?」
「そんな話より−」
「ん?…」

−−ふわわ−−

「…」
「、!?!ちょ…」

何か柔らかいモノが唇に当たった。それが、市の唇で、キスされたと把握するには数秒かかった。あまりにも急であまりにも唐突。あまりにも予想外で。頭がショートするかと思った。

両肩に市の手が置かれ女性特有の甘く妖艶な香りが漂う。少し背伸びをし、黒髪が夕焼けに色を薄く染めていた。

「…。これが私の気持ちだったらどうする?前田君」
「お、織田さん?」
「私と付き合ってみない?」
「は?何云って…」
「嫌?こんな私みたいな女」
「嫌じゃないよ。寧ろ、何で俺なんかを?」

慶次は即答する。学校のマドンナ的な存在の市が何故軽そうに見える自分にそんな事をしのか気にならずにはいられなかった。ぐるぐるする頭を回転させて言葉を発する。

「興味があるから」
「?」
「楽天的で周りに流されない貴方みたいな人が側に居たら、私も少しは明るくなれるかと思ったの」
「成程。それなら、一緒に委員長になったのも何かの縁って事だよね?ビックリしたぁ。あの織田さんが俺なんかを好きになるなるなんて夢みたいなもんだからさ。俺に出来る事があったら相談してよ」
「(捉える意味が違うけど)そうね。有難う」

市は扉を開ける手を止めて振り向く。

「キス、したくなったら云ってね」
「駄目だよ。そういうのは本当に好きになった人とするもんだって」
「なら、長政先輩とキスしたら妬いてくれる?」
「そんな事云うなら俺、本気にしちゃうよ?」
「本気にさせてるの」

慶次に近付いて手を伸ばす。頬を撫で唇にまた柔らかい物が当たる。

「もっと」
「良いわよ」






女心は奇妙奇天烈だ。複雑で繊細。織田さんは俺が好き。俺も織田さんが好き。両想いなんだよな?心から喜べないのは何でだろ。恋が怖いのか?まさか。俺に限って。







終。
12*30
-umi-
初市×慶次です。世間では冬コミ中なんですよね。その期間中に何かアップしたかったので上げたのがこのCP。本気は慶就が良かったんですが、いつの間にか市×慶になっていました。慶×市と記載したかったけど、話の流れ的に市×慶の方がしっくりくるかなと。
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