何で禁煙Dなんてなきゃならないんだ

  くそっ何で今日は街中やたら気持ち悪いような気がすんだ?





          

「ったく…こんな時に限ってヤニ切れかよ?」




 D




「トムさん、」

「何だ?あ〜…アレだなぁ」



顔をしかめながら上司の田中トムと街を歩く。平和島静雄は何やら落ち着かない様子が滲み出ている。



「今日は確か、アレの日だ!」


人差し指を立てて、アレだアレだと出かかっている言葉を探している。


「アレっすか?」

「アレだよ」



静雄にはアレが何を差しているのかが分からない。トムは、静雄も自分と同じだと思っているのだと思い、何だっけかな。と答えを促す。が、静雄はそれが何なのかと全く分からないでいる。



「っかし、街中何か変な感じしませんか?」

「誰かに。喧嘩でも売られんのかもな」

「…今日は機嫌が悪ぃんで、半殺し以上になるかもしれません」

「!それって完全に殺しちまうって意味か?」

「?!違いますよっ」

「例えが悪いんだよ。用はアレだろ?煙草切れて機嫌が悪いから、腹の居所が悪いって事だ。ま、こんな日に喧嘩売る奴が居たらいつもよりも悲劇だな」

「煙草切れたんで、かなりイラついてます。それはトムさんだって同じじゃないんすか?」

「俺は大人だからな。感情のコントロールは大抵出来るさ。お前も少しは落ち着いて大きく深呼吸してみ?煙草切れても、少しは落ち着くぞ」




云われてやってみる。



     スー…

肺に、
煙草の煙の変わりに、池袋の空気を肺一杯に吸い込む。

     ハー…

口から、
吸い込んだ空気を、肺一杯の池袋の空気を口から吐き出す。



「…」

「どうだ?落ち着いたべ?」

「…はい。少し。俺もまだまだっすね…」

「まだまだお子ちゃまだな。よし、これから美味い飯でも食いに行くか」

「あ、はい」




落ち着いた静雄を見たトムは、腕時計に目線を落とし、まだ昼食を済ましていないからと静雄を食事に誘う。二人で食事を取る事はあまりない。今日は、更に静雄へのストッパーになるよう努めようとトムは思う。静雄が煙草へ気持ちが少しでも傾く様に、話題をテンコ盛りに考える。そんな中、さっきから突っ掛かっていた答えを思い出したトム。




「あ。思い出した」

「アレっすか?」

「ああ。アレだ。アレアレ。"禁煙デー"だ。思い出してすっきりした。…。あ…」


「煙草…ヤニ切れ…」



静雄を見るとプッツンしかけていた。トムは思わず、口を滑らしてしまった事を後悔する。ったく、だから餓鬼は…煙草が切れたからってすぐイライラする。少しは俺を見習え。同じく煙草切らしてるのに我慢してるぞ?…そー云えば、自販機って…



「トムさん、ちょっと煙草買ってきます」



静雄は自販機を探す。



「やめとけ。今日は無駄だ」

「?どーゆー意味すか?」

「自販機見れば分かる」




自販機の前に着くと、トムが云わんとした意味が理解出来た。



「…寝てやがる」

「寝ねぇだろ。自販機は。電源自体入ってねぇんだよ。此処までやるとは流石だな。街中の吸い殻入れ撤去じゃ終わらないか。行政も考えたな」



感心しているトムとは反対に静雄はどうにかしようと、自販機に手を掛けようとする。が、トムの一言でその自販機は命拾いする事になる。


「ちょっと待て!!静雄。自販機ブッ壊したら、給料無しだぞ」

「!?」



「…分かりました…」


渋々の回答。


「よし。俺が昼飯奢ってやるから今日は大人しくしてろよ?」

「マジすか?有難うございます」



少しは、躊躇ってから礼を云ってくれたらもっと嬉しいんだがな…ま。静雄が一日でも穏やかに過ごしてくれりゃ、上司の俺としても穏やかに過ごせる。折原臨也と出くわさなきゃな…



「街中吸い殻入れは無いわ、自販機は爆睡してやがるし、腹いせに、臨也を殺しに行くか…」

「それ、明日にしろ。今日位は穏やかに過ごす日にするってのはどーよ?」

「いや、今日だけじゃなく、俺はこれから毎日穏やかに過ごしたいっす。臨也が死んでくれれば良いんですがね」

「物騒だな、おい。兎に角、飯だ飯。煙草なんて忘れちまえ」

「何かソレ、-フラれた女を忘れろ-みたいなセリフっすね…」

「!?云うなーっ心の傷が…」

「あ、スンマセン…」







どうやら、上司トムは、最近彼女にフラれたらしい

と、社内の噂を耳にするのはその日の退社直前だった。









終。
2010*05*31
-umi-
禁煙デーと云う事で、突発ネタでした。
トムさんて煙草吸うのかが分かりせんでした。一応、愛煙家の設定です。トムさんの口調微妙
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