摩娘兎

    痛いの痛いの跳んで逝け












      









 痛い
       痛い
  痛い



「こんなに痛くなるんだったら、我慢しないどけば良かった…薬切らしてたなんて、何で気付かなかったんだろ…」


保健室まであと数十b。角を曲がり、カウセリングルームを通り抜ければすぐソコ。授業の担任に、アレ、とは云えず、体調不良と偽り保健室へと進んでいる。少女は痛みが増す中、一歩一歩一歩脚を前に踏み出す。カウセリングルームを通り過ぎ、あと一歩。の所で力尽き、へなヘナへな…と横たわってしまった。既に授業は始まっており、少女が倒れた事を知る人物は居なかった。かに思えた―が、教科担任ではない職員が一人、その廊下を通った。授業中は然程通行量は多くない通路。その人物は横たわっている少女を視界に捕らえた瞬間―笑みを零し、歩を変わらぬ速さで歩み寄る。少女は気付き、その人物と同じく、少女の視界にも人物を捕らえた(足元を)。




「…」


力無い頭を目線のみ見上げると、黒いスーツにシナモンホイップ色した人物が少女を見下ろしていた。


「"十増間"さん?どうしたの?」

「…くどうせんせい…?」


男はしゃがみ込み、少女との距離を狭める。


「お昼ご飯食べたからおネムの時間なのかな?」

「そんな訳…わっ」


からかうように云うと、少女の片手を取り、一緒に立ち上がる。制服を叩(はた)き、汚れを落とす。後ろを向かせ背中、腰と下に下がり、次にスカートに移ろうとした時、少女は身を翻した。


「?」

「お尻は触らないよ。別に触っても構わないけどね。それより、おいで―」

「え?」


    ――ガラガラ――


カウセリングルームに入り、ベッドへ案内する。


「そこに座って?立ってるの辛いでしょ?」

「あ、はい」


云われるがまま、ベッドへ腰掛けるとフワッとしていた。思っていたより学校のベッドもきちんとしていると少女は感心した。これまで、学校のベッドなど使用した事が無縁だった少女にとってコレは新たな発見であった。


「私ホットチョコが飲みたいです」

「駄目だよ?今の"十増間"さんには、こっちじゃないと」

 ・・・・
「"なかしま"です」

「ああ…ごめんごめん(笑)"十増間"さんが板に付いちゃってね。嫌かい?」

「当然です!!」


少女はホットチョコのマグカップを指差すが、既に男が飲みはじめており、それを飲む事は叶わなかった。少女は渋々ホットミルクに口付ける。するど、「おいしい」と言葉が洩れた。ミルクだけではないらしく、砂糖と蜂蜜が少量入っていた。


「美味しいかい?」


コクンと頷く少女の隣に男は腰掛ける。すると、少女は少し距離を設けようとずれる。男は少女に寄る。


「あの、近いんですけど…」

「だから?」

「もう少し離れてくれませんか?」

「離れてるじゃない」

「駄目です。もっと」

「折角二人きりなのに。じゃぁ、コレをあげようか」


男はホットチョコを口に含むと、少女の唇を覆った。


「ん…―ゴクン―っ」

「ど?お味は」

「っぷはっ何だか苦い…って何するんですか!!


唇が離されると少女は抗議する。男は口端に付いたチョコを指で掬い少女の口に入れた。


「んむ…」

「生憎、ビターで作ったホットチョコだからね。甘いのが好きだった?」


少女は男の手を取り、口から抜き出す。


「そ…いう事じゃ、」

「見て?間接キス

///!!!」


人差し指をペロリと業とらしく舐める。目の前の少女は顔を赤くさせてとても可愛らしく見える。ベッドから立ち上がり、テーブルにマグカップを置き、戻ってくるなり少女を押し倒した。


    ホフン


「なっ」

「お腹、摩ってあげる。痛いんでしょ?保健室まで行こうとしたけど、力尽きた。そうでしょ?保健室じゃなくて、僕の所に来れば、君ならいつでも大歓迎さ

「お、おお…おなか、痛くなんて、ありませ…んから、ど、どいて下さい」

「何も変な事はしないよ。だから安心おし。」


「僕にはその痛みが分からないからね。男だから。薬、飲んでいくかい?市販の痛み止めならあるけど」

「せ、先生が思っているような事じゃありませんからっ帰りま―」


男を振りほどき、地を着いた瞬間―


   ――グ――
      ――ラ――
――リ――


床にへたり込んでしまった。


「やれやれ、云わんこっちゃない。大人しく僕に従っていれば、楽になれる」


男は少女を抱き抱え、ベッドへ寝かす。傍らに腰掛け、再度、少女の腹を摩る。


「今日は放課後まで此処に居ると良い。二人きりにしてあげるから。誰も入らないよう、僕は帰宅した事にすれば良いだけだから。扉に"帰宅しました"って札付けてさ。そうすれば、誰も、来ない。軟禁だなんて云わないでね?」

「軟禁って…。授業に遅れます」

「大丈夫。僕が遅れた分、教えてあげるから。殆どの教科はまかせてよ」

「信用ありません」

「信用する為にも、試したらどう?」

「試す?」

「そう。僕がきちんと教科を教えられるかどうかを」

「遠慮します」

「つれないね。諦めて"お願いします"って云えば可愛いげがあるのに」


「ま。どんな君でも可愛がれるけどね?」

「――っ」


耳元で云われ、少女は声の無い叫びをあげた


「その前に、薬、飲んだ方が良いね」


少女から離れ、救急箱から少女が常備薬として使用している薬とぬるま湯を渡される


「コレ、いつも私が使ってる薬…」

「そうなの?頓服薬で一番飲みやすくて、使ってる人が多いからね。僕もコレが身体に合ってるみたいだし。生徒達もよく貰いに来るんだ」

「保健室じゃなくて?」

「カウンセリングの途中で、吐気や頭痛がする生徒も居るからね。その為も兼ねて薬は幾つか常備してるんだ」


「ま。君には、カウンセリング自体必要性がないからね」

「…(イラッ)喧嘩売ってます?」

「まさか。心身共に悩み事が無いって事が健康体だって褒めてるんだよ。薬、口移しで飲ませてあげようか?」

「なっ」


少女は素早く、薬とぬるま湯を口に含み、胃に流す



「こうやって、痛みが治まるまで摩っていてあげるから横になって?」


仕方なく横たわり、男が摩る様子を眺める事にした。最初は嫌がってそうな態度だったが、穏やかな表情になり男の手を握る


「先生の手って大きいんですね」

「そりゃあ、年齢と性別を見れば相応な大きさなんじゃないの?」

「ふーん」


「さぁ、っててあげるから、眠りなさい。可愛い可愛いさん。の様な君は、僕に食べられてしまわない為に、早く眠りの底について」



――ウト――






    ――スヤスヤ――




        
「おやすみ。僕だけの摩娘兎(=真)」



   また起きたら、お腹摩ってあげる













終。
2010*08*28
-umi-
女の子の日ネタでした。すみません(平謝)一度は書いてみたかったんです。キスまでなら良いでしょ?的な工藤先生を出したかったけど、微妙…摩娘兎はまことって読みます。
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