Princess of the tears star
涙
星
の
お
姫
様
これは
愛
を含んだ
愛
なのか?それとも
愛
を含まない
愛
なのか。
今はどちらでも良か。
この行為が継続するのであれば。
貴方の心が欲しい。身体はとっくに手に入っているのだから。あとは、「心」だけ。でも、もしかしたら、身体すら手に入っていないのだとしたら?他の女を抱く貴方の身体。
キスをし、愛撫をし、突っ込んで、貫いて!
そして、貴方の子を宿す女が現れる!!
それは自然の摂理。種の保存。生物として産まれ落ちたのなら、それを行うのは世の流れに適している。
中には、その流れに反して一生フリーとなる人間は多い。
だけど、僕達が行っている行為は、同性のセックス。
種の保存など、別次元なのだ。
だから、平気。
愛
の言葉など、たかがチップ。
身体を売る人間が居て、身体を買う人間が居る。
それだけ。
そう、それだけなのだ。今は。この時間は。
僕達は
恋人
でもなければ
愛人
でもない。ただの
セフレ
。
毎夜、ほぼ決まった時間に訪れる貴方。インターホンが鳴れば対応する。手には一輪の薔薇。白薔薇。花言葉は・・・忘れた。
色が違う薔薇が増える度、殺風景な部屋が華やかに彩られるんだ。
大画面に映る貴方を見ただけで、これから始まる行為が本物へと近付く。本当に何も無かった夜もある、実際に。
それは、ジョンを連れて来て、ただ単に仕事仲間と一匹で戯れる、と云うだけの時間。そんな時間も、僕はとても好きだ。
夕飯を共に作り、良い雰囲気となれば、夕飯の準備などそっちのけでキッチンセックスをする。エプロンを着用している身ならば、裸エプロンなんてすぐ出来る。
貴方のペニスをしゃぶって、僕は自分で扱く。
貴方の足が僕のペニスを刺激する時もある。
そんな記憶を手繰る。さて、今夜はどんな夜になるのかな。
「今日は何もシないんですか?」
僕は思いいふけっていた頭を横に振って、ベッドで横になっている貴方に語り掛けた。
入室するなり、すぐに僕を寝室へ連行した。今日は出動はなかったので、貴方と料理をしようと、美味しそうな食材を買ってきてあるのに。そんな日に限って即セックスなんて酷い。まぁ、僕から一言「今夜は一緒に夕飯を作りましょう」などのメッセージをメールしておいたのなら、貴方はセックスよりも先に僕と調理してくれましたか?いつも、貴方の気分に合わせた夕飯に、プレイの種類(大して無いけど)。そして、これから何が始まるのかワクワクして仕方ない。
雑誌を読んでいる貴方からの空返事が聞こえた。
「うん」
「本当に?」
僕は貴方に近付く。
「ああ」
「僕が、その雑誌の女の様に、ガーターベルトでロリータ服着て貴方を誘ってあげましょうか?」
貴方から雑誌を奪う。
「...?」
もう一度、と聞き返す貴方を僕はキスで唇を塞ぐ。
「ふ...ん...スカイハイ─」
「何?...雑誌に嫉妬かい?」
奪った雑誌をベッド上から落として視界から消してやった。
だって貴方が読んでいるのはAV雑誌だったから。
性欲処理出来る僕が居ると云うのに、この天然が!
「僕を差し置いて、雑誌で処理しようと考えていたんですか?」
「ん...質問しているのは私だ」
くるり、と身体を反転され、俯せにされた。キスが中途半端で終わってしまったので口寂しい。
シーツにキスしても気持ち良くない。
「う...」
腰を掴まれ、四つん這いになった僕はカチャカチャとベルトを脱がす音を耳に聴く。
嗚呼...
触られるのは、と期待する。
膝の位置までズボンと下着を下ろされ、僕のペニスが現れた。
尻を揉まれ、次第に柔らかくなるのが分かる。
でも、ペニスには触られない。
「意地悪...」
「何が?」
肝心のペニスには触れず、太ももや、膝近くの皮膚を触ってくる。
「君が"ウロボロス"だって事を今も黙っている事への罰をあげたくてね」
「別に黙っていた訳じゃ...」
そう。黙っていた訳ではない。お互い、どんなプライベートも黙認の上での行為だ。例え、ヒーローとして道を踏み外したとしても本人の問題であり、相手には無関係でいなければならない。それが、悪の道だとしても。キースは初めてバーナビーを抱いた夜に、彼に彫られた刺青が気になっていた。だが、プライベートの事には干渉しない約束。その刺青の形を記憶し、ゆっくり自分で調べる事にした。治安の悪い地区へ行き、その刺青を刻んでいる人間を探したが見つからなかった。ところが、ある晩、路地裏で漆黒に包まれた謎の人物に声を掛けられた。キースが探している刺青を右人差し指の平に刻まれているのを、その人物はキースに見せた。それから、キースは気を失った。気付いた時には朝になっており、片手には酒瓶を手にしていたので、昨晩は何時の間にか酔いつぶれてしまったかけなのだと思っていた。
酒がまだ頭を刺激して、クラクラする。タクシーで自宅に戻ったキースはシャワーを浴びた。左股関節辺りにうっすらと痣が出来ていた。ぶつけた覚えはないが、出動時に無意識に怪我をしたのだろう、位にしかその時は思っていなかった。愛犬の食事を済ませリビングのソファで横になった。昨夜の出来事をよく思い出せないでいる。治安の悪い地区に行ったのまでははっきりと覚えている。それから何をしていたのか分からない。多分、何人かの人間に刺青の事を聞いたのだろう。喧嘩をふっかけられたりしなかったのは幸いだった。身体には傷一つ無いのがその証拠だ。現金もバーで酒を一杯飲める程度しか持って行かなかったのでスられる心配はないと云って良い。大した詮索も出来ない内に気を失って朝になった。あの怪しそうな人物と出会わなかったら、と思うと余計、頭が痛くなった。
ただの
セフレ
のバーナビーのプライベートの事で自分がこんなにも真剣に詮索してしまう事が笑える。遊びのつもりが、気付けばもっともっとと欲が増すのだ。こんな美味しい
セフレ
はそうは居ない。過去、数人とそんな関係になったが、ここまで執着する相手は居なかった。皆、女だった。男はバーナビーが初めてである。この関係はずっと続けてゆきたい。バーナビーが関係を解消したいと云い出すまでは。
数日経過しても痣は治らなかった。むしろ、色濃くなり見覚えのある形に形成されている様に思えていた。
「もしかして...」
と、確信めいた可能性は更に数日後、完全なる確信となった。
それはバーナビーや、あの晩に出会った謎の人物と同じ刺青。
何故、キースにもその刺青が刻まれいるのか?
本人が一番困惑する。
あの晩、記憶は無いだけで、─何かを施された─と考えるのが自然か。
刺青を身体に刻むと云うのは本来、施術中、麻酔が切れても痛みが残ると聞いている。しかし、キースにはその様は痛みは無い。二日酔いに似た頭のふらつきと頭痛のみで、患部に関しては何事も無いのだ。
記憶が無いのはとても気持ち悪い。キースは今夜、同じ路地裏に再び行く事を決めた。あの晩以来、刺青に関する詮索を行っていなかった。あれから、二十日近く。バーナビーとは相変わらずの関係だ。
くっきりとしてきた刺青はそろそろバーナビーにも気付かれる可能性がある。
それは構わない。何の刺青かは知らないが、
セフレ
との間でしかない関係をほんの少し打破する証がこの身体み刻まれていると云うのは歓喜である。それがどんな意味を持ったとしても。茨の道だったとしても。謎の人物とも同じと考えれば、天国へ繋がる刺青では無い事は明らかだ。
同じ時間、同じ場所に路地裏へ向かう。今度は当時、購入した記憶のない酒瓶を片手に。街灯は全て切れており、いかがわしい店から照らされる僅かな光のみ。そんな中、漆黒を纏った人物は再びキースに話掛ける。
[こんばんは]
前回は会話もなく近付き、人差し指を眼前に出して消えた。
「こんばんは」
鸚鵡返しをし、何者かと質問してみた。
「君は何者なのかな?君と会った時からの記憶が無いんだ。NEXTかな?」
[...]
「黙っていては分からない。私に何をしたのかを知りたいんだ」
[...。ワタシはキースだ]
「私?」
[そう。ワタシはもう一人のキース。キースが望んでいる事を形にしてあげたんだ]
ジキルとハイド?な訳でもないし。そもそも私とこの人物との身体は離れている。
「騙されないぞ。もしかして記憶を操る能力?」
[奴と一緒にするな]
「奴?」
[まぁ良い。ワタシがキース、君に施した芸術はとても甘美なる接吻だ。それを受け取ったキース、バーナビーと茨の道を歩むが良い。時には残酷で、時には甘美で]
「!?」
漆黒の仮面を外した顔を見てキースは驚愕した。
それは自分を瓜二つの顔。
瞳の色が紅の様に見えるが、この暗闇では定かではない。
が、姿が自分を模しているのだけは分かった。
よく聞けば、声も似ている。
ジキルとハイドの世界ではなく、ドッペルゲンガーなのかもしてない。
[そうだね。例えるならば、"ジキルとハイド"かな。今はこうして、身体は離れているが、次第に一つになり、人格がワタシとキースに別れるんだ。そうなったら、ワタシもバーナビーを愛してあげよう]
「勝手な事を...」
謎の人物、もう一人の私と豪語するワタシは笑いながら近付いてくる。
[可哀想に。
セフレ
の関係でしかないキース]
「ん...!?!」
ワタシにキスをされ、舌が絡まれる。
[ワタシはウロボロス。バーナビーも同じだ。だから、バーナビーに恋をしているキースにも同じ烙印を]
数回のキスが終わると、ワタシは静かに姿を消した。
「...夢ではないな」
唇を摩りながら、現実だと思い知るキース。
P
r
i
n
c
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h
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t
e
a
r
s
s
t
a
r
終。
-umi-
2012*08*27
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