Your sky feels sick




僕は貴方の事が分からない。
"好き"だと云われてもその気持ちにはまだ応えられない。

当初の"憧れ"は、やがて"恐怖"の対象に変わる。
貴方の顔を見るだけで、自分がどうにかなってしまいそうな程に。


「今日も素晴らしい活躍でしたね」

心にも無い事を営業スマイルで告げると、男は心からの笑顔で喜んだ。
彼の気持ちも知らないで。

「ありがとう」

好きな気持ちを閉じ込める。
そうすれば、この気持ちを男に気付かれる事は無い。

「君達の連携は…うん。良いね!素晴らしいよ」
「そうですか?」
「羨ましい」

コンビを組む、と云う事が男にとっては羨ましいようだ。
彼は、会話が途切れた時の沈黙が怖かった。
告白の応えを欲しているのが分かるから。
こんなにも"好き"ならば、そう応えてしまえば楽になれる。

両思いになるのが怖い。
だから"好き"と云えない。
それは正直な感情である。
だから突き放してしまう。

「なら、KOHをやめておじさんとコンビ組みます?」

とぼけた提案をすると、男は笑いながら近付き彼の耳元で囁いた。

「そうやってつれない素振りをするのも大概にした方が良いよ?」

低いトーンで語られた言葉に目を見開く。
視界がぼやけてしまう程に近い男。
美しい瞳の色に吸い込まれてしまいそうになる。

「な、何が云いたいのか分かりません」

微妙に声が震える。

「どうせ組むなら、バーナビー君と組みたい」
「…」
「そうしたらいつでも一緒で居られる」

手首を掴まれ、バランスを崩した彼は男に傾いた。

「おっと。危ない」
「貴方がいきなり手を掴むから…」

彼の背に腕を回す。
きっちりとホールドしてしまえば男の勝ち。

「こうでもしなけれな、君は私から逃げてしまう。風の様に」
「KOHがこんなにも卑怯だとは思いませんでした」
「逃げないのかい?そして卑怯ではないよ」

もしかしたら逃げられるかもしれないと自分と男の間に腕を突っ張ろうと力を加える。
力の差、と云うものはこうも違うのかと彼は思い知った。
見た目よりも遥かに強いのだ。

「卑怯ですよ」
「私からすれば余程─」
「?!」

空が土砂降りになったかの様な気がした。
それは気のせいなのだが、己の身に起こった事実にそう錯覚したのだ。

「私の気持ちは変わらない。無理矢理にでも君を手に入れてしまうか、君が私に落ちてきてくれるの待つか迷っている」
「っかは…」

鳩尾に一発喰らい彼はその場に倒れ込む。
片手で鳩尾を押さえ、男を睨み付けた。

「怖い顔をしないでくれないか?」

男はしゃがみ込むと、満面の笑みで頬を摩った。
彼の肌は、想像していた通りやはり心地良い。

「暴力は一番嫌いなんだ。だから、最低限君が傷付かない方法で手に入れるしかない。最善を尽くしたい」
「…なら、僕には関わらない。と云う方法はどうです?」
「それじゃあ、意味が無いんだよ」

親指の爪で頬に食い込ませると、僅かに血が滲む。

「痛」
「あまり、君が乗り気でないのなら…そうだね。強制的に奪ってしまうしかないかもしれない」

男に唾を吐き捨てた。
上手い具合に男の頬に彼の唾液が付着する。

「出来るものなら、させてあげますよ。キース・グッドマン」

手の甲で唾液を拭い、彼からの宣戦布告を受け取った。

「君をその気にさせたら私の勝ちで良いね?バーナビー・ブルックス・Jr」
「ええ」






  Your sky feels sick






終。
-umi-
2012*07*06
空兎ちゃん。








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