深海の底で眠りたいのに悪夢が追い掛けて人魚姫を捕まえる

*アニメ4話あたりを前提にしております。バーナビーがブルーローズに対する感情など。あとは捏造。







店で貴方と同じ香水を見つけた。サンプルを嗅ぐと、やはり貴方の香りが鼻腔を擽って安らかな気分になった。
値段も手頃な所は、おじさんらしいと思った。僕とコンビを組んでからは給料は比べ物にならない筈だ。契約金は僕も驚く程に良い。成績が良ければ尚更。個人的には差があるものの、コンビとなれば個人成績は影響されない。それでも、生活スタイルが変わらないのはやはり、鏑木・T。虎徹と云う人物なのだろう。僕はあまり経済的に裕福な方なので生活スタイルには気を留めた事はない。
スキンケア商品を幾つか買い物カゴに入れ、店内を散策する。新型モデルの腕時計や指輪。季節は春から夏にさしかかっているので、もう夏服が約八割を占めている。春服はセールされて価格も優しい。

迷いに迷い、貴方の香りをした香水を購入した。自宅に戻っても貴方の事を感じていたかったから。どんなに報われない行為を行ってもこの香りを嗅げば癒された。真っ青な色した香水。まるで深海の様な。そんな海の底で眠れたらどんなに安らかだろうか。

今夜もあの人と会うのかと思うとゾッとする。でも行為自体は楽しく思えてくる自分が居る。本当のあの人として行為が出来たらどんなに良いか。どんなに楽か。
きっと背徳感に苛(さいな)まれながら感じている顔をしている僕を見るのが楽しくて仕方がないのだろう。


  自分を可哀想だなんて思わない。
  あの人を可哀想だなんて思わない。


彼が好きなだけなんだ。僕もあの人も。

あの人との待ち合わせまであと二十一分。時計の秒針が一秒一秒縮まる。心は踊らない。身体はきっと踊るのだろう。行為の為に。互いの欲求を満たす為の。報われない賛歌。


「あれ?この香り、タイガーさんからもしてましたけどバーナビーさんも同じのつけてるんですか?」

いち早く気付いたのは見切れ職人のヒーロー、折紙サイクロンことイワン・カレリンだった。鈍感に見えたが意外と周りの変化に気付くタイプらしい。

「気付きました?あの人を驚かそうと思いまして」

"あの人が好きだから"と云うのは隠し、"バディだから"や"犯人が変装した時の為に周りの変化に敏感にならないと"と適当な理由を付けてイワンと会話をする。

「まだ気付かないんですか?もう夕方なのに」
「ええ。鈍過ぎます」
「自分が付けている香水って中々分からないのかも」
「自分では?すぐに分かりそうですが」
「バーナビーさん、」
「はい」

イワンは虎徹以外でもその手がどのようなアクションを起こすのか試してみないか、と提案する。本当に虎徹はこの香りに鈍感なのか敏感なのか。イワンの云う通りなら、自分では"自分の香り"と云うものが分かり難いのかもしれない。バーナビーは自分自身はすぐ分かると確信しながらも、イワンの提案に乗る事にした。


   



「僕は香水はつけませんから、普段よく付けているファイヤーエンブレムさんから借りてきました」

数日後、イワンは事前にファイヤーエンブレムから香水を貰っていた。無くす恐れがあるからと少し中身を別けてくれと頼むと「香水は中身に通じる蓋は開かないの」と云われてしまった。香水を手にした事のないイワンは、香水における一つの知識を身に付けた。しかし、満タンに入っている香水をもし割ったりでもすれば一大事。幸いにも、彼いや彼女から手渡されたのは残り僅か一センチ程の量。「買い替える時期だから、ソレあげるわ。たまにはそう云うお洒落も大事よ?」と意味ありげに手渡せたのが昨日。

「どうですか?ファイヤーエンブレムさんの香りします?」

クンクンと鼻を鳴らして嗅いでみるが、自分では鼻が麻痺しているのか分かり難い。

「彼の香りがしますね」

スンスンと可愛らしく鼻を鳴らすバーナビー。顔が近くにあり、キスをしたくなってしまう距離。

「"彼"じゃなくて"彼女"ですよ?」
「…」

罰を受けた様な顔も可愛らしい。バーナビーにとっては"彼"でも"彼女"でもどちらでも良い。色目で感じる時もあるので、あまり仕事以外では接点は欲しくないのがバーナビーがファイヤーエンブレムに対する体勢だ。

「今日トレーニングルームに集まったのはブルーローズとドラゴンキッドだけでした。ブルーローズはすぐに気付いてくれました」
「お年頃だからじゃないですか?」
「そうなんですか?」
「知らないんですか?ブルーローズは女子高生だって」
「ああ。だから学校で色んな香水が流行ってるって云ってたんだ」
「理由聞いてなかったんですか?」
「聞こうと思ってたら、お菓子をくれたので聞きそびれちゃって」
「ドラゴンキッドはまだ子どもだし、"香水"なんて言葉も知らなそうな気がしますね」
「ブルーローズから言葉の意味を聞いてました」
「因みに僕も、かr…彼女の香りだとすぐに分かりましたが、いまいち不明瞭ですね」

周りの人間が気付いても、検証したい虎徹が来なければ本当の意味で意味がない。

「そうだ。ブルーローズからも香水を貰ったんです」
「ブルーローズから?珍しい」

バーナビーはブルーローズの事もあまりよく思っていない。過去に彼女のお陰でポイントを稼ぐ事が出来たが、あの女王様気質のアイドルには気が合わない。普段の彼女も知らない訳だし尚更。

「男性用のサンプルだって」
「最近、新作を配ってますからね」
「明日こっちを付けてきます」

小さな小瓶を揺らすと透明感の漂う香水がユラユラと動く。持っているだけで癒される。ファイヤーエンブレムからのも取り出して同じく揺らすと自然に笑みが出てくる。

「先輩」
「バーナビーさんもやってみます?癒されますよ?」
「遊んでないで貸して下さい」
「あ」

遊んでいる訳ではなかったが、バーナビーからしてみれば遊んでいる様に見えたらしい。

「先輩はあまりこう云うのには慣れていませんから、明日からは僕が付けてきます」
「大丈夫です」
「嗅ぎ慣れていない香りを身に付けるのは身体に負担が掛かります。僕は香水を付けているので」
「バーナビーさんも付けるんですか」
「最初に云いませんでした?」

手首の裏をイワンの鼻に近付ける。チョコ?かなり甘い。まるでバーナビーさんを表す様な甘く甘く。

「分かります?」
「チョコ?」
「チョコクッキーです。お菓子はあまり食べないんですが、懐かしい香りがしたもので、つい」

「確かに懐かしい様な」

それは母が手作りしてくれたあのチョコクッキーの香りがほんの僅かにした。この化学物質を含む香りがなければ良いのに。

香水を取り上げられ、イワンはバーナビーの手を掴んだ。

「必ず返しますから」
「そうじゃなくて」
「?」
「もう一度嗅がせて下さい」

バーナビーの手首に鼻を鳴らす。味はするのかと舌を出すと驚いた顔をされた。
そんな驚かなくても。

「!?」
「あれ、味はしないんですね」
「当たり前です。抑(そもそも)、舐めてはいけないんです。すぐに口をゆすいで下さい」

反対に腕を引かれ、トイレへと入る。トイレじゃなくても、トレーニングルームの隅に手洗い場があるのに。

「平気です」
「駄目です。きちんと水で洗い流さないと」

コックを捻り水を出してグチュグチュとゆすぐ。

「ふー」
「さっぱりしました?」
「はい」
「そんな所舐めるからこんな事になるんですよ?」
「舐めたいから舐めたんですよ?」
「は?」
「だって…美味しそうじゃかいですか。バーナビーさんって」
「ん!」

突然のキスで体勢を崩した。




















終。
-umi-
2012*04*23
折兎。続く…かもしれません。続かないかも…。

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