海に漂う花の様な素顔


─嗚呼、君は何て聡明ななのだろう?このまま喰べてしまいたい。死人を弔うの様に可憐で儚い君を海に沈めてしまいたい─












「どう?僕の事、"受け入れる準備"出来た?」

誰も居ない体育館倉庫。この街の夜は本当に暗い。都会の明るさなど何のその、と云った風に夜空に星達が瞬いている。だが、ここからはそんな星達は満足には望めない。倉庫内には古ぼけ明かりが灯り、その眼下を照らす。マットの上に横たわる少年の目は虚ろ。もう一人の彼に声を出そうとするが身体が倦怠感を起こし、何も気力を見出してはくれない。"受け入れる準備"だと?そんなのまだ答えは出ていない。何度身体を揺さぶられても、"受け入れる"事などありはしない。"身体は受け入れても"、"心が受け入れを許可"しなければ、少年は救われない。同様に、彼も救われない。力で捻じ伏せてしまえば、先刻の様に少年を犯す事は容易である。だが、そこには心がない。感情任せの、ただの欲求を満たす為の行為。少年には抗う術は無く、可哀想に。簡単に割り切ってしまえればどんなに楽か。自分が傷付きたくないから否定をしている。もしかしたら、"本当は彼の事が好きなのかもしれない"と怖い解答が己の中で出ているのかもしれない。何にせよ、それを感じてしったら、少年は彼にどう縋(すが)るのだろうか?"受け入れてみたい"と云う自分。"受け入れたくない"と云う自分。確かに、この行為は決して気持ち良く無いとは云い切れない。奇しくも、気持ち良いと感じ、絶頂した自分がそこには居たのだ。もっと、この行為の続きがシたい、と願う少年。もっと犯して自分に従わせたいと願う彼。

…うん

小さく頷く少年に彼は口角を上げ、衣服に身を包み終えた身体を再び着脱し、ワイシャツ一枚の肌蹴た少年に覆い被さった。"受け入れる準備"が整うまで定期的に犯して行こうと考えていた彼の目論見は、少年の今の返答によって変更された。"完全に受け入れた"。倦怠感の残る身体を動かし、彼の背中に腕を回す。彼に抵抗する事を諦めた少年が、自らの感情を殺し、彼に彼の為に、己の為にこの行為を肯定した。きっといつかは、この行為も、彼の事も、"心から受け入れる"事が出来るかもしれないと思ったから。

「有難う」

フワリ、と優しく微笑む彼の表情は聊(いささ)か弱弱しく見えた。先程までの雄と化していた彼の顔付きとは打って変わっている。こんな表情を見せられては、己の感情が揺れ動いてしまいそうになる。これから、この一回の行為で彼の事を好きになってしまったら己はどうなってしまうだろう。きっと"愛"なんてモノが芽生えて同意のセックスになるだろう事は予想出来る。

「"共犯"…だね」

"共犯"。そう告げた少年の声は僅かに震えていた。これは彼を少年の秘め事。誰にも気付かれはならない秘密。

「"受け入れてくれて有難う"」
「…うん」



─嗚呼、君は何て聡明ななのだろう?このまま喰べてしまいたい。死人を弔うの様に可憐で儚い君を海に沈めてしまいたい─












終。
2012*01*17
-umi-
事後の風榊。自分を受け入れて欲しくて何度か犯した風見君。葛藤の末、それを受け入れた恒一君。
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