キスと蜂蜜と奇好


「キスがこんなにも苦いなんて…」 

勅使河原は舌で唇をなぞりながら呟いた。それは、恒一にキスをしたすぐ後の出来事。

「勅使河原って珈琲飴苦手?」

ベっ、と舌を出すその上には舐めかけの珈琲飴が乗っかっている。その飴はクラスメイトの誰かから貰ったもの。放課後、男子トイレの個室に二人で入り、勅使河原からキスをした。舌を入れる前に先刻の言葉が彼から漏れる。

「砂糖入れて甘くした珈琲飴なら舐められる」

こちらは、"苦い"と見るからに分かる表情で舌をベっ、と出しながら眉間に皺を寄せながら恒一に向かい指を指す。

「微糖って書いてあったよ?」
「微糖じゃ微妙にしか甘くないじゃんか」
「それ、洒落?」
「んな事より、甘い飴ねぇの?」
「蜂蜜のなら」

云うなり、勅使河原はポケットティッシュを取り出して恒一が舐めていた飴を掴み包んだ。

「まだ舐め終わってないよ」
「蜂蜜のがあんだろ?蜂蜜のが」

仕方ないとでも云う様な素振りで蜂蜜味の飴を取り出す。続いてその飴を口に放り、またベっ、と勅使河原に見せる。蜂蜜味の飴は王子…?とか云う男子から貰っていた。その場を勅使河原が偶然見ていたらしく。

「美味しいよ?」
「美味しいよって、ソレ一つしかないだろ」
「だから」

一旦飴を己の口内に戻し、勅使河原に近付く。そして。

「ん」

コロン、と飴が移動した。勅使河原の口内へ。恒一の行動に勅使河原は声を上げる。不意打ちのキス。蜂蜜味のキス。

「どう?」
「っ…」
「甘かった?」
「何すんだよ?」
「飴をあげたかった、から?」

語尾に疑問符が付いた答えが返ってくる。自分が取った行動だろうに、と、勅使河原は内心悪態つく。

「けど、ソレ俺以外にはするなよ?」
「何で?」
「他の連中の手に触れたら何をサれるか分かったモンじゃないし」
「何かを、サれる?」

可愛らしく首を傾げ、こちらを見ている。この無垢な表情がヤバいのだ。

「教えてよ」
「おい」
「ナニ、サれるのかを」

勅使河原の口内の飴を再び己の口内に戻す様に、舌を差し入れ飴を探す。

「今更、知らない振りは反則だぜ?」
「ん…」
「こんな場所で、こんな事して、お前からキスして、他の連中に同じ事したら何サれるか分からない?白々しいよ、本当に」
「んぅ」

業と飴を頬に隠し、恒一に取られない様にした。恒一の舌を絡め取る。

「この飴、すっげぇ甘い。さっきの苦いのとは大違いだ」
「苦い味は、大人の…象徴なんだって」
「誰の入れ知恵よ?」
「ふぁ…、風見君」
「優等生面しやがって」
「クラス委員なんて…ぁ、頼もしいじゃない」

制服の前止めを外し、恒一の首元を緩める。華奢な首。勅使河原の両手には余る細さだ。そんな首に唇が移動する。

「あっ」
「何処までシたい?」
「…」
「なぁ」

上目遣いで恒一を見ると、少々睨みの利いた視線が勅使河原に振り注がれた。

「馬鹿じゃないの?こんな狭い場所で…最ごっ─!!?」

恒一は云い掛けて慌てて口を閉じた。両手で口を押さえ、気まずそうに。

「最後?」

首を左右に振り否定する。が、言葉の意味を知れてしまったからにはどう否定しても遅く、意味を持たない。

「へぇ?最後までシたかった?」
「〜〜」

もごもごと喋る声は上手く聞き取れない。

「ほら、ちゃんと云えよ」

口に当てた両手を剥がされ、恒一は「あ」と眉を寄せる。

「俺と最後までシたかったんだろ?」
「…ぅぅ…」
「正直に吐け」

耳元で囁けば、身体が嫌な反応をする。

「こ、こんな状況じゃ、云わなくても分かるだろ!!」

恒一は声を荒げた。それに面喰った勅使河原はプッと噴出し、掴んだままの恒一の両手を壁に押し付ける。

「云ったな?」
「え?」

男の顔に変化する様な、今包まれている空気が変わってくる。

「流石に此処(個室トイレ)じゃ狭いし、中に出さないとお前が汚れるし」
「!?な、中は駄目っ」
「何で?」
「何でって…」
「いつも処理してやってんだろ?」

ベルトのバックルを外され、ズボンと下着を床に下ろされると恒一は抵抗し始める。

「やだよ」
「暴れんなって。ゴム忘れたし、仕方無ぇじゃん」
「仕方無いじゃ済まさない!他の場所で」
「俺は今、此処の気分なんだよ。お前も同意で来たんじゃないのかよ?」
「そ、それはそうだけど…」
「ゴム無し、生でヤろうぜ?」
「俺はどうするの?制服も勅使河原のジャージも汚れる」
「う〜ん、便器の中に出すってのは?」

勅使河原の軽く考えた頭に恒一は落胆する。

「なら、勅使河原もその方法にしてよ」
「やだよ」

この即答さに少なからず怒りを覚えた。

「即答かよ。良いだろ?」
「お前の中でイきたいの、俺は」

よくもまぁ、堂々とそんな事を云えるものだ。出されるこっちの身にもなってもらいたい。だが、本当はそんな勅使河原の気持ちが嬉しい。恒一は中出しする条件に、一つ頼み事をした。

「じゃあ、今度何かご馳走してよ。美味しいモノ」
「美味しいモノ?」
「うん」
「例えば?」

恒一のモノに触れる。

「ん…」

上下に扱き始めると恒一は声を甘くさせた。

「パフェ、とか…」
「パフェ?何でまた」
「そんな…気分だから」

勅使河原の両肩に手を添えて快楽に耐える。先走りが恒一のソレから顔を出し、事がいよいよ始まるのを予感、実感させる。

「そんな気分じゃ、そん時には違うモンが食べたくなるんじゃねぇの?」
「そう、かもね」
「俺はお前を喰べたいよ」
「ぁん…、勅使河原って奇好だよね」
「奇好?」
「マニ…アックなのが好き、な例えさ」
「そんな言葉あった?」
「俺の造語」
「ふぅん。じゃ、俺達はマニアック仲間だな」

唇を恒一に近付け、キスをする。

「一緒にしないで…。ん、」
「こんなトイレでセックスなんてイカれてるよ」
「ふぁ…」
「風見にでも自慢するか」
「…馬鹿」
「アイツお前に、ほの字、だぜ?」

角度を変えるとそんな聞きたくもない名前が出てくるのだから嫌になる。そもそもこんな関係は、この目の前に居る"勅使河原直哉"にしか許してはいないのだから。仮に、風見智彦が自分を好きだとしても、それに答えられる気持ちや感情は無いに等しい。





キスと蜂蜜と奇好






「仕方ないから、中に出させてあげる」
「上から目線だな」
「約束、忘れないでよ…?」
「へいへい」












2012*01*22
-umi-
テーマは男子トイレの個室で。
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