骨々と舞い散る雪の吐く息

  


  −コンコン−

転校先のクラスメイト達が帰った数分後、再び病室の扉にノックする音が叩かれた。

「どうぞ」

看護士の水野だろうか?、と恒一はそう思いながら返事をする。

「お前が榊原恒一?」

入室してきたのは、先程の三人とは違う人物だった。金混じりの茶髪にジャージ姿に同じ公章を付けている。剽軽(ひょうきん)な表情の少年がズカズカと歩いてきてはベッド横の椅子に座る。

「さっき、風見達が来たんだって?」
「うん」
「どうだった?」
「どうって?」
「第一印象だよ。三人の」
「ああ。真面目そうで信頼感ありそうな感じかな」

次に両手をくるくると回しながら尋ねた。

「赤沢は?」

くるくると指を回したのは彼女の髪型だったらしく、恒一はそのジェスチャーの意味が分かった。

「凜としてて僕の事を、"恒一君"て呼んで良い?なんて云われたよ」
「へぇ、やっぱ赤沢だな」
「やっぱり?」

腕組みをしながら納得する勅使河原に疑問を抱くと、彼は慌てて頭(かぶり)を振った。やはり、彼らには何か言葉では表現出来ぬ、違和感が漂っている気がしてならない。小さな疑問小さな違和感が雪の様に散らつく。
今度は髪に結わき方を真似たジェスチャーで桜木を連想させた勅使河原。

「さ、桜木は?」
「皆で用意してくれたって綺麗な花束を花瓶に移してくれたり。それ位かな?」
「風見はどんなだった?」
「クラス委員長?だっけ。勉強につける様に、まとめたノートのコピーをくれたよ。前居た学校とは違って、初対面から色々と気に掛けてくれるし」
「じゃあ、俺は?」

ずいっと身を恒一に乗り出し、ニヤリと笑う。

「き、君?えーと…名前が…」
「勅使河原」
「、」

恒一の頬に勅使河原の指が触れる。

「勅使河原直哉」
「勅使河原…君。」
「覚えた?」

この嫌な感じがする触り方。気持ち悪い。蛇にでも撫でれられている感覚。

「直也って呼んでも良いんだぜ?」
「い、いきなりは呼べないよ」
「何で?」
「何でって」
「赤沢には"恒一君"って呼ばすのに?」
「それは僕が呼ばれる側だから」

頬から首筋に下降する指が冷や汗と共に下る。

「なら俺にも呼んでよ」
「ひっ、」
「何?その声」

妙な感覚に上擦った声が恒一の咽から出た。

「呼ぶのは僕なんだから、勅使河原君にはまだ下の名前では呼べないよ…」
「もしかして感じたの?」
「!?」

「綺麗な首して」

首に纏わり付く気味の悪い蛇。早く離れて欲しい。この空間が、密室で、二人きりでいる事が何よりも恨めしい。獲物を獲られた様な感覚が恒一を占める。男特有の骨骨とした指が恒一を閉じ込め独占せんと息巻いている。

「てし…がわら、君…」
「初めて?」
「初めて…?」
「初めてか。分かった。大丈夫、病人に酷い事はしない」
「は…は、」

息が次第に乱れる恒一に勅使河原は入院着のボタンを上から外していく。

「何、するの?」
「見てれば分かる」
「やだ!」

脱がされている、と認知した恒一は慌てて勅使河原の手を掴む。すると急に胸が苦しくなり、勅使河原の肩に顔を埋めた。

「お、おい!大丈夫か?」
「だい…丈夫。少し…苦しくなっただけだから」

悪戯が過ぎたと反省した勅使河原は恒一をベッドにゆっくり倒した。

「悪い…」
「良いよ…。あらかた、新人イジメみたいなモノだと思ってるから」

気胸が現れた訳では無かったが、それに似た別の胸への締め付けがあった。それは、風見にも抱いた云い知れぬ胸の苦しさだった。

「新人イジメって、俺そんな風に見えるか?」

仰向けで天井を見上げる恒一の手を握る。視線のみ勅使河原に向けると、「うん」とだけ答えが返ってきた。

「んな訳ねぇだろ?」
「なら何?」
「う〜ん、何て云うか…気になる相手って事だよ」
「気になる?」
「一目惚れってやつ」

恒一の唇に自分のを重ね合わし、それから舌を忍び入れた。

「?!!」
「榊原は俺の事、どう思う?」

付いたり離れる唇は、もはや誰にも立ち入れぬ空間。恒一は勅使河原の両肩を押して退かそうとするが、先程の苦しさもあり力不足で何の役にも立っていない。

「やめてよ」

恒一の上に覆い被さるもう一人の人間の身体に、古ぼけたベッドは−ギシリ−と音を立てる。
「んふぅ…」
「"恒一"」

この先、何をサれるかは流石に分かる。が、男相手にそこまでやるのか?の疑問はすぐに雪の煙となり消え去る。

「すっげーそそる顔
「っはぁ…はぁ…」

唇が解放され、恒一は呼吸を整える。

「苦しかった?」
「そりゃあ…」
「俺の気持ち分かってくれた?」
「気持ち?」

何となく、いや、心の底から彼の気持ちを感情を理解してしまった。分かりたくなかった。初対面で、男で、もしかしたら自分もその感情に飲まれてしまうかもしれないと畏怖する。

「…分からないよ」

本当に分からなかった。こんな感情、今迄抱いた事がないのだから。女子を好きになった感情と酷似しているが、何処か違う。

「あ、ごめん…」
「…うん」

勅使河原は恒一と腕一本分の距離を置いて謝った。気まずそうに。恒一に何かを植え付ける様に。二人共、高潮した頬が病室に差し込む夕日に照らされる。
この今の、今この身に起こった出来事は何だろう?それはもう、考えるまでも無く、その現実通りの真実であり、現象。幻でも何でも無い。

  ─キスをされて、犯されそうになった─

だけである。深く考える理由も無い。しかし、浅く考えるでも無い。この身に起こった理不尽な出来事を受け入れれば良いだけだ。思考が追い付いていかない脳。心臓だけが脈拍を早めている。思考する脳よりも感情を動かす脳が恒一を苦しめる。

「じ、じゃぁ、また」
「…うん」

ぎこちない雰囲気の中勅使河原は病室を出て行く。












「何であんな事したんだよ、俺は…」













終。
-umi-
2012*01*16
勅使榊。このカプ好きです。恒一君受けが増えます様に。





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