花びらの隙間に待ち侘びた芍薬


「好きなんや…若先生が」



告白。
今迄数度告白をされてきた。
女子からでしかなかったのだが、今回ばかりは違っていた。
男からで。
しかも自分の受け持つ大事な生徒からだった。




















「僕もですよ。勝呂君」

営業スマイルでそう答えると、「違う」と青年は云った。彼も内心、好きの意味が違うと云う事には気付いていた。気付いてはいけない。それを認めてしまったら、今迄築いてきた関係が壊れてしまう。恋愛感情を含めない只の好きであるならばそれい受け答えするのは簡単だ。だから悪魔で大事な生徒で、大事な友人としての好きで押し通そうと考えた。その方が今もこれからも周りに気遣う事もなければ、互いも楽でいられる筈。兄の燐が青年と同じ位大事で大好きで掛け替えのないたった一人の家族なのだ。今もこれからも燐を護っていきたいと云う感情が彼に恋に走る事にブレーキを掛けている。青年はそんな彼の感情は知らない。

「そういう意味やなくて俺は─」
「きっと勝呂君は勘違いしているんです。好きと云う意味を」

まだ続く青年の言葉を遮る。その先はきっと、聞いてしまったら答えに詰まってしまうから。聞きたくなかった。聞いてしまったら、父の墓前で燐を護ると誓った事が揺らいでしまいそういなるから。だの何だのと現(うつつ)を抜かしていられる程、彼は器用ではない。息抜きとして、遊びやを仕事と両立出来ればさして悩む事ではないのかもしれない。実際、学園でも勉学に遊びにバイトにと上手くバランスを取りながら生活しえいる生徒達はごまんと居る。

「これからも僕の大事な生徒で"友人"で居て下さい」

そう青年に伝え、様々な教材が入った鞄を持ち、彼は急ぎ足で教室を後にした。一人残された青年の目に一輪の花が落ちていた。きっと彼が忘れていったのだろう。鞄の中に同じ様な花が入っていたから。

「…花?」

手に取ると、青年も教室を出て行った。彼の忘れ物だと職員室を訪れても良かったが、この気まずい雰囲気の後である。行きずらい。何食わぬ顔で用件を述べれば良いだけ、と思っても、花一輪を届けるのも変かもしれないと思考がグルグルする。結局、職員室には行かない事に決めた。後は寮へ戻るだけだったが、この花が知りたくて図書室へ向かう。


図書室には誰も居らず、人目を気にする事なく植物や花の本棚から花言葉の題名の本を手に取る。パラパラとめくると同じ花の写真に目を止めた。

「えーと…」

何万種類もあり同じ様な花が沢山ある。

「あった。シャクヤク?」

そこには、名前と生態、花言葉がつらつらと書かれている。元来、花には興味が無い青年。花にも花言葉などあったのかと関心する。知った花言葉が、先程の彼の態度に似ていたのだと思い当たった。似ていると思えば似ている。違うと思えば違うが、どうしても青年の気持ちが彼に向いているので、当て嵌めてしまう。そう決め付けてしまえば、この気持ちも少しは楽になった。彼は青年が今こうして、無意識に忘れ物をしたモノに対して、更に彼への意識、好意が増した事は知らない。





     





「(僕の答えをあの花に託してわざと忘れ物を装ってみたけど、勝呂君は気付いてくれたかだろうか…)」

顔を赤くしながら、職員室へ向かう。彼はわざと花を忘れ物にした。もしかしたら、青年が花について、何か調べるかもしれないと踏んで。都合良く、青年は彼の思惑通り、調べ物をして彼への想いは強くなった。

「(言葉で伝えられないなんて…素直じゃないな僕も)」









END

-umi-
2011*09*22
勝雪。
芍薬=恥じらい。
勝呂君への強い想いがあるのに、敢えて興味ない態度を取り、忘れ物をしてそれを調べさせる確信犯な雪男君。調べ物をするかしないかは確率的に低いが、勝呂君ならしてくれそうだったので。
勝呂君に対してただ単に恥ずかしいから芍薬に例えて答えた雪男君って話です。
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