愛しい人は彼女しか見ない。
−貴方は俺を見る振りをしながら、彼女を見ている。俺を一番愛していると云いながら、彼女に黄昏ている。貴方は本当は俺を見ていないのだろう。そう。始めから俺など見てはいなかった。只、俺を介して彼女の事しか考えていなのだ。その事が分かってから数日、愛の言葉に不信を抱くようになった−





    
  






「愛してる」

そんな言葉も嘘に聞こえる。そう。貴方が見ているのはオードリーじゃないですか。臆病な貴方は彼女に手が出せず、俺に手を出した。良いんだ、それは。内に秘めたこの想いが少しだけ報われた気がしたから。俺だけの心。誰にも穢されない。貴方にも内緒の心。上辺だけのの言葉でも俺の心は救われる。そう思わなければ、この気持ちは焼き焦がれて灰になってしまうから。この瞬間だけでも俺を求めてくれたらそれだけで良かった。この甘酸っぱい苺の音色。苺の音符が爆発する前に貴方に触れて欲しくて。業と気を引かせたり、無防備になったり。普段は絶対にしない、貴方の目の前で着替えて見せたり頑張ってみた。でもそれは偶然の流れでだった。ネェル・アーガマ内で身柄を拘束されていた俺が医務室で治療を受けていた時。安静にしていなければならなかったが、尋問の時間が来たので貴方の監視下の元、医療服を着脱。貴方は気にも留めていなかった様子で凝視していた。ただの監視役として俺を見張っているだえなのに、一歩的に貴方を好きになってしまった。それはきっと、憧れに似た感情だった筈だ。少年が目上の青年に憧れを抱くと云うのは珍しくもない。しかし、行動を共にする時間が経つにつれて感情に変化が生じた。偶然にも青年も少年に恋心を抱き始めていた。それが今に陥っている。

「俺は」

誠か偽りか。現に青年は少年を抱き締めてを囁いた。

「駄目か?」
「…」

「ダメ、じゃないです」

少年はこの時を大いに待ち望んでいた。だが、いざ身体を重ねる行為となると身体が震える。新芽の息吹が目を覚まそうとしている。少年が一歩足を踏み出せば簡単な事だ。

「駄目じゃないなら、この手をどけろよ。キス、出来ないだろ?」
「やっぱり俺には…」
「愛してる」

その言葉が俺を苦しめる。貴方のそのの言葉が。途轍もなく苦しい。貴方を好きな筈なのに、囁かれると苦しくて堪らない。死んでしまいそうだ。本当は彼女が好きなのを俺は知っている。俺も彼女が好きだ。それ以上に貴方が好き。好き過ぎて甘酸っぱい苺は破裂してしまいそう。

「愛してる」

 ─嫌だ、やめろ─

今直ぐにでも貴方をの営みをしたいのに、苦しみが溢れ出して否定の感情しか浮かばなくなる。本当は貴方が大好きなのに。

「愛してる」
「俺は違います」
「セックスの時、あんなに"愛してます"って云ってたのは誰だ?」

目尻に舌が触れる。ザワリと背筋に走る。

「俺の事、本当は嫌い?」
「うう…」

左指が少年の右耳を弄る。まるで愛撫するかの様な手付きで。

「嘘でも本当でも構わない」
「、ィ少尉」
「俺も本当はミネバが好きなんだ」
「…」

─やっぱり。そうだと思いました。貴方はオードリーに一目惚れしたんですから。只の性欲処理として俺を選んだだけなんです。俺もそれを承知で付き合った。同罪でおあいこです。これからの、この行為もそんなオードリーへの想いを表した性欲処理をするんです。互いの欲が処理出来ればそれで良い。それだけで良い。心からの恋人ではない。セックスフレンド、と呼ばれる間柄なのかもしれない─


「知ってましたよ」
「そしてお前もミネバが好きでたまらない」
「俺は別に…」
「嘘。俺とミネバが地球へ降りる時に交わした時の、ミネバへのお前の声は、心底本当に逢いたかった人に逢えたって感じだった」
「!!」
「図星だな」
「ち、違います」
「違うなら俺とのセックスは拒否しないだろ?」

耳朶を抓られ、吐息を被せる様な口調で囁くと少年は男の服をギュッと握る。

「貴方とはそう云う関係ですから、拒みはしません。だけど…」
「だけど?」

少年は背伸びをし男の耳元で、こう、囁いた。

「この時間だけは"俺だけを見て下さい"。オードリーじゃなく、俺を」

その言葉に男は赤面する。頭を掻きながら照れくさそうに少年の両頬を包み込んだ。

「とんだ殺し文句だな」
「え?」
「いや。"お誘い上手なお姫様"になったもんだなと思ってさ」
「…姫?」

眉間に皺を寄せ、頬を膨らませる。

「訂正。"お誘い上手な王子様"か」
「誰が"お誘い上手"ですか」
「誰ってバナージしか居ないだろ?」
「ばっ」

「馬鹿云わないで下さい!!」

ゴンっと景気の良い音が響いた時には、男は少年から頭突きを喰らわされていた。

「痛っ!!」

「何するんだよ?いきなり頭突きなんて卑怯だろ?」
「リディ少尉が変な事云うからです」

おでこを摩りながら文句を云うと少年も同じ様におでこを摩っていた。どうやら、頭突きを仕掛けた張本人も痛みを得ていたらしい。

「それだけお前が進歩したって話をしたんだ」
「そんな進歩必要ありません」
「恋人じゃないのかよ」
「こ…セ、…と、友達です!!」

幾つかの答えの内、まともな答え方をしたが、この答えも良く考えればまともなのか微妙であった。

「何て答えようとした?素直にセックスフレンドって云っちまえば楽だろ?」
「!!?」
「なぁ?バナージ」

抱き締められると抵抗する意欲は萎えてしまう。惚れた弱み。

「だから貴方は直線的過ぎるんです」
「回りくどく誤解されるより、直球で責めた方が良い」
「戦術には使わないで下さいね」
「それは返答に悩むな…。今はコッチだろ?」
「オードリーの事考えてたら、また頭突きしますからね」
「はいはい。畏まりました王子様」











終。
2011*12*20
-umi-
どうも似たような内容になってしまう。







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