お前と私は似ていない
 
 
 
 
 

「アンタは俺と同じ匂いがする」

ある一室に男と女が居合わせている。部屋にはセミダブルベッド、執務机、ソファーにシャワールームといった上質な室内。監視カメラは設置されていない。執務机とソファー、ベッドにシャワールームと二部屋に分かれている。

「何の用でしょう。アンジェロ大尉」

女は冷たく男を睨み、執務机にある調度品を手に取った。突然呼びつけられ、用件を中々云わない男に苛立ちを覚える。フル・フロンタルに呼びつけられるならまだしも、個人的にこの男の個室へノコノコやって来た自分にも腹が立った。"大事な用がある"と擦れ違い様に耳打ちされた事が気になったのは事実だ。何故この部屋だのか疑問視するも入室した時点で女の勝敗は決まっていた。

「ソレをくれてやろうとお前を呼んだ」
「…」

女は眉間に皺を寄せ、手にしていた調度品を乱暴に執務机に置いた。三メートルあった二人の距離を男が縮めに歩み寄って来る。やれやれ、と云った男の表情に更に女の皺が深さを増す。

「その様なくだらない用なら戻らせて頂く」
「待て」

踵を返した女の腕を掴み男はこちらに振り向かせる。

「作戦の事以外でしたら私には必要ありません。その調度品も、もっと相応しいお相手に差し上げては如何でしょう?」
「強化人間には洒落た物も好まないのか?」
「戦いには必要ありませんから」
「こんなに綺麗な肌をしているのに?」

頬に男の手が触れる。あの忘れ去りたい過去以来、男に肌を触られる事がなかった身体は反射的に男の手を払い退けた。

「何をなさるのです」
「そのままの意味さ」
「理解しかねます」

「折角褒めてやってるんだ。素直に喜んだらどうなんだ?」
「おやめ下さい」

耳に男の息が掛かる。ゾワリとした感覚が全身を巡り、本能が危機感を知らせる。

「お前は私と同じ匂いがする」
「似てはおりません」
「似てる」

舌が生温い。過去の感覚が蘇る。

「男に抱かれて生きてたんだろ?」
「!?」

その過去は一部の人間しか知られていない。フル・フロンタルは個人の極秘事項の他言はしない事は知っている。部下であるこの男には知られていない筈である。しかし、知っていう節がある口調に女は引っ掛かる。

「何の事でしょう」

悪魔で知らぬ存ぜぬを押し通そう、そしてこの空間から脱出せねば、女は必死で男の胸倉を掴み抵抗する。本気を出せば、軍人であるこの男と同等に張り合えるだろう。だが、忌まわしい過去の記憶が脳裏を過ぎる身体は希望通りの力が出せない。

「匂いで分かる。男に吐き出されたモノの匂いが染み付いている」
「私に染み付いているのは血の匂いです」
「認めたな?」
「は?」
「私は間接的に"吐き出されたモノ"と云った。お前が血だと云い改めたのはソレが違うモノだと肯定した証拠」
「!?」

女は内心舌打ちする。

「その言葉通りでしたら、失礼ですが、アンジェロ大尉もその様な過去をお持ちなのでしょうか」

仕返し代わりに同意語を質問する。男は否定する訳もなく、あっさり肯定した。

「男に抱かれた事がある。それが?」

それが?、で言葉を終えた男は女にキスをした。

「っ…」
「良いだろ?一度お前を抱いてみたかったんだ」
「おやめ下さい」






 





終。
2011*12*13
-umi-
アンジェロとマリーダさん。境遇は違うけど、男に抱かれた過去を持つ者同士って事で書いてみたかった。

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